テネシー在住の友人、ゴスペルユニット”Ko and Saori”で活躍するSaori Mannさんが今年の10月にソロアルバム(EP)をリリースされました。
“Ko and Saori”のお二人とは、以前から交流があるのですが、今年の7月に僕たちのバンドがアメリカを訪れた際にもお世話になりました。テネシー州チャタヌーガにて一緒にコンサートをやったのですが、それはこれから非常に大きなメッセージを発信していく第一歩だったように思います。
そんなSaori Mannさんのソロアルバムをレビューするという約束だったので、リリースしてから少し時間がたちましたが、書いてみたいと思います。
Saori Mannさんは、宮崎県の出身だと聞いていますが、福岡に住んでいたこともあり、そして現在はアメリカのテネシー州在住です。
九州という場所には、ロックの土壌があります。福岡にはめんたいロックの歴史があります。
日本のロックンロールの歴史がある九州、福岡。
そこから、ブルース、ジャズ、カントリーといった音楽のルーツでもあるアメリカ南部、それも音楽の中心地であるナッシュビルのあるテネシー州に移り住んだSaori Mannさん。
ロックンロールというものへの理解は、相当に深いと思われます。
シンガーとしてミュージシャンとして、日本にいた頃から活動されていたかと思いますが、同じくテネシー州在住の日本人ギタリストKo Itoさんとユニット”Ko and Saori”を結成して、デビューアルバムを発表したのが、2020年のこと。
アメリカの地から日本の人たちに向けて、アメリカ南部ならではの伝統的なブルース、ロックンロールのスタイルを踏襲し、けれども聞きやすいJ-popの形に仕上げて、ゴスペルのメッセージを歌う。それは非常にユニークな立ち位置での逆輸入デビューでした。
Ko and Saoriは2022年にセカンドアルバムを発表しています。日本の人たちに愛を伝えたい、また自殺者の多い日本という国で、苦しんでいる人の助けになりたいという志のもと、「白浜レスキューネットワーク」を支援するチャリティーを行い、傷ついた人に寄り添うような内容の「星は好きですか」という曲を歌っています。
“Ko and Saori”の2枚のアルバムから感じられたのは、「等身大のゴスペル」という事。
またKoさんとSaoriさんの音楽には、人々に愛を伝えたい、傷ついた人の力になりたい、という確固としたメッセージが全体に貫かれているように思います。
今回、シンガーのSaori Mannさんがソロアルバムを発表し、めでたくソロデビューという事になったわけですが、このソロアルバム「宝石」にも、その等身大のゴスペル、そして傷ついた人の力になりたい、という思いが表現されています。
音楽的には、聴きやすいJ-popと言える内容ですが、全体にどことなく古き良きロックンロールのフレーバーが根底にあり、また1980年代や1990年代といった歌謡曲としてのJ-popが全盛だった時代のテイストがあります。
サウンド的には、インディーズの手作りプロダクションならではのちょっとしたチープさも感じられます。けれども、Saoriさんの歌が非常にパワフルな事と、彼女の歌そのものが等身大で気さくなメッセージとキャラクターを持ったものなので、却って良い世界観を生み出す結果になっています。ピアノの音、エレキギターの音、そしてブルースハープ、それらがロックンロールの文脈によって鳴らされ、その上でJ-popや歌謡曲のテイストを持ったSaoriさんのパワフルな歌が炸裂しています。
“Ko and Saori”の音楽は、聴きやすいロック、ポップ、ブルースといった要素を持ったものではありましたが、基本的にやはりゴスペルミュージックであったと思います。
しかし、今回のSaori Mannさんのソロアルバムは、もっと親しみやすい、より生活感のあるJ-popだと言えます。
メッセージ性のある歌で、とにかく歌詞がよく伝わってきます。
そして、そこに描かれている世界は、日本の各地、大阪であるとか、福岡であるとか、そういった場所で生きている人々のリアルな生活と、そこにある感情。
人生に悩んだり、つらいことがあったり、失恋したり、困難を乗り越えたり、そんな人生の山あり谷ありの感情が、生々しく描き出されています。現代SNS社会の中の安っぽい共感を狙うような表現ではなく、昔ながらのブルースが下敷きになっているような、ありのままの感情です。
こういったところは、本当に凄いと思わされます。
僕も自分のバンドでゴスペルを基調としたロック(ハードロック、ヘヴィメタル等)を演奏し歌っていますが、僕は正直こういった地に足の着いた表現をするのは苦手な方です。悩んでいる人々の感情に寄り添うような表現が、等身大の形で出来るのは、Saori Mannさんの持ち味であり、人間性であると思います。誰もが持つような人生の悩みやつらさを素直に歌っているSaoriさんの歌に励まされる人はきっと多いのではないでしょうか。
そんな親しみやすく、生活感のある、地に足の着いたJ-popを歌っていながら、そこに突然「神様」が現れます。
そこにはまったく違和感はなく、悩みや苦しみの中で、救いを求める心に応えるようにして、神様の存在が自然に出てきます。それは人間誰もが持つ、祈りの感情なのだと思います。
「マスカラありますから!」と歌った後で、突然「イエス様」が出てくると、普通はがくっと来るものですが、曲の展開としてもうまく工夫されているので、すっと入って来るのです。
そして、その上で「あなたの存在価値はありますから!」と言われると、なんだか納得してしまう。そんな不思議なパワーがあります。
すべての曲からそのような不思議なメッセージが感じられます。
つらい失恋や、困難ばかりの人生、そういった内容が歌われていても、その中でぱっと神様が現れる。今は大変でも、ちゃんと希望のメッセージがあって、それがすっと受け入れられる。そしてSaoriさんは「神様は見ていてくれる」と歌うのです。
この生身の感情、生活と人生が感じられるJ-popに、ゴスペルのメッセージ、神様の愛がちゃんと入っている。きっとこれが、Saori Mannさんが言うところの新しいJ-pop、「Jesus pop」なのではないかと思います。
僕のレビューの文章では、あまりうまく伝えられないかもしれませんが、九州の方言で歌って、人生の酸いも甘いも感じられて、根性のある頼れる姉御、みたいなキャラクターもあるSaoriさんのパワフルではつらつとした歌は、やはり天性のものがあります。そんな日本人らしい天性の才能とキャラクターが、アメリカのテネシー州から発信されているというのが、やはり貴重なことのように思います。アメリカの真ん中で本格的なとんこつラーメンを食べたらこんな気分かもしれません。
ここにはいくつもの人生の物語が描かれています。ひとつひとつの曲が、短編小説のようです。
神様はちゃんと見ていてくれる。
そして、人生はつらいけど、がんばってがんばって、もうがんばれなくなった時、そんな時こそ、神様がいてくれる。
そんな希望のあるメッセージが、自然な形で感じられて、聴く人を励ましてくれる。
とても魅力的な内容のアルバムです。
どの曲にも、それぞれの物語が、それぞれの生活が、登場人物の感情が、ユニークな形で表現されていますが、僕が個人的に、全体を通して聞いて印象に残ったのは、最後の曲である「ここにいるよ」でしょうか。
モジュレーションのかかったエレキギターの音がぐわーんと鳴る中で、強く、優しく、歌い上げるメッセージはまさしくブルースのルーツに通じるものであると思います。
日本の外にいるから、却って日本の事が見える。
だからこそ鳴らせた、これが日本のブルース、といったところでしょうか。
お見事です。
[レビュー以上]
Spotifyのアルバムリンク
テキサス州ダラスのイベントでのSaori Mannさんのメッセージ
「ここにいるよ」
テネシー州チャタヌーガのコンサートでのメッセージ
Ko and Saori 「星は好きですか」
各種ストリーミングへのリンク
https://big-up.style/3VCo1Ij14c
Saoriさんのインスタグラム
https://www.instagram.com/saorimann