気力がなかったので、哲学のところまで書き切れなかった(汗)
道具なんて道具と言ってしまえばそれまでなのだが。
昨日、おととい書いたマイクプリについてぐだぐだ書いていたやつの続きである。
知ったようなことを、あるいは逆にカマトトぶって、思わせぶりなことを書いてしまって恥ずかしいのだけれど、
笑われるのを承知で続きを書いてみよう。
まずはJoeMeekという伝説のブランドである。
これも説明すると長いみたい。
以下は、いまどきインターネットをちょっと巡回すればわかる情報。
逆に言えば、ちょっとネットを回ってみた限りでの情報。
まずJoe Meekっていうのは昔、1960年代とかにイギリスで活躍していた音楽プロデューサー/エンジニアの偉い人らしい。
そして、その人と一緒に仕事をしていたTed Fletcherって人が、後になってJoeMeekブランドでマニアックなアウトボードを作り始めたらしい。
一番の売りだったのは、独特の効き方をするオプティカルコンプレッサー。
で、1990年代にはそれがすごく流行っていました、と。
これがクラシックJoeMeekギアということらしい。
で、2000年代の半ばくらいに、そのTed Fletcherは経営から離れ、というか、ブランドをアメリカの大手オーディオメーカーPMI Audioに売却した。というか買収された、というか。どっちかわからんけど。
その後、PMI AudioはJoeMeekブランドの製品をリニューアルし、メイドインチャイナに生産を移して、低価格路線に舵を取った。
対して、Ted Fletcherさんは、個人経営っぽい高級ブティック路線で機材を作り続けた、と。(これだと思う。http://www.tfpro.com/ )
こういうお話らしい。
(なんか、Hamer Guitarsの歴史とけっこうかぶるな。。。。ビジネス、経済は、歴史は繰り返す、と。)
で、クラシックなTed Fletcherさんが作っていた機材は、クセがあって、個性が強くて、ヴィンテージ。
対して、PMI以降(フェンダーかよ。。。)のJoeMeekは、もっと汎用性の高い、個性の薄いものになっていった、と。
そのOld Meekと、PMI以降のNew Meekに関しては、インターネットのフォーラムでもやっぱり少なからず、議論がされている。その論調はおなじみのもので、つまり、PMIになってからの新しいものは最悪だ、手作りだった古いものは良かった、というのが基本路線である。(が、少なからず、PMIの現行Joemeekを評価する向きも存在する。)
で、僕が昔使っていたVC3っていうのは、Ted Fletcherさんだったころの時代のもの。
で、僕が最近、”Jesus Wind”および”Overture”で使ったThreeQっていうのは、PMI時代のもの。
そう思うと、確かにVC3の時は、通しただけで一聴してわかるくらいに「まったり感」がつくくらいの個性を感じた。
ThreeQは、一応の後継機種ではあるが、もっと素直でハイファイと感じた。
その印象は、確かに間違っていなかったわけだ。
だが、僕はVC3に関しては、要所要所でちょくちょく使っていたけれども、ギター用のメインとしては、僕の用途だとdbx 576の方が良かったし、また、ヴォーカル用にもずっと使っていたけれども、ヴォーカル用としては僕は新しい方のThreeQの方が正直、良い。少なくとも今の僕の歌唱スタイルだとそうだ。(昔の歌唱スタイルだと、やっぱりVC3で正解だった。なんだ、うまくできてるな。)
だからやはり立ち位置の難しい機材だと思う。
ブランドイメージに関しては、古い方は高級路線、新しい方は大衆路線、でありながらも、どちらもいまいち恵まれていない。
つまり、Tedさん時代のクラシックJoemeekは、ヴィンテージテイスト故に評判となったが、クセの強さ、個性の強さゆえに悪評もあった。
そして、PMI時代のJoemeekは、安かろう悪かろう路線のゆえに、実際の性能に比して、やっぱり悪評があるわけだ。
歴史の説明を続ければ、
PMI AudioがJoemeekブランドを買収した後、そのリニューアルを指揮したのは、Malcolm Toftという人物で、この人がその昔、Tridentコンソールの開発をしていた人だったらしい。
Toftさんは、このPMI Audioグループで、同様にToft Audioというブランドで、やっぱりこの新しい方のmeekと良く似た製品を発売していたり、あとはアナログコンソールとか作ったりしていたみたい。その話は長くなるから省略。
いずれにせよ、いろいろ見ていくと、PMI買収以降のJoe Meekは、Ted氏の作品というよりは、Ted氏のレガシーを意識しつつも、Malcolm Toftさんの色が強く出たものになっているように思える。ほぼ、Toftさんの作品というか。
で、このMolcolm Toftさん、もちろん、コンソールではオールディスクリートの回路も作っているんだろうけれども(いや、そうでもないのか、あくまでICなのか)、
このJoeMeek、そしてToft Audioの製品に関して、ディスクリートではない、ICというのかオペアンプを中心に使用して組み立てる設計のマイクプリを作り上げた。
この事は、もちろんPMI Joemeekの製品の低価格化にも貢献しているだろう。
で、そこにはやっぱり賛否両論があるみたい。
いずれにせよこのMalcolm Toftさんが、ある時期以降、IC basedのプリアンプを作っていた、ということは、評価はどうあれ着目すべきことだ。
(参考 https://tapeop.com/reviews/gear/69/atb-series-console/ )
なので、僕が、ここ2作、ThreeQを使って、「楽しいなー」と思って作っていた”Jesus Wind”および”Overture”の音は、ディスクリートでは無いわけだ。
(全部じゃないけどね。)
もっとも、では振り返って、ディスクリート回路なんて贅沢なものを使って制作したことが、どれだけあったか、という話にもなってしまうけれど。
だが、少なくとも、僕の環境、僕の立場においては、結果は上々だった。
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で、ここで、そうやって考えてみると、(リハスタに持ち運びできるモバイル機材、という制約を忘れてしまうのであれば)、たとえばebayなりreverbなりで、Ted Fletcher時代のJoemeekを見つけることだって出来るわけだ。
ヴィンテージ路線の機材としては、最高級の評価を持っているもののひとつであるからして、それらが、現実的な価格で手に入るとすれば、魅力的ではないか。
電圧の問題はあるんだけれど、逆に昇圧してしまえば、「いやあ、日本は電圧が100Vだから音が薄味で」とか嘆く必要はなくなる。(やってみないとわからんけど)
そいでも、またまた言ってしまうが、本当にその「クラシックMeek」の音が必要か?
また、そういう音が欲しいのであれば、素直にUniversal Audioの610をゲットすればいいだけではないのか。
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Ted Fletcher時代にせよ、PMI時代にせよ、Joemeekの機材はマイナーで、ちょっと独特な立ち位置にある。
手作り感が満載だった(らしい)Ted Fletcher時代に比して、PMI傘下のMeekは、より素直なハイファイになった、とは言っても、やっぱり独特のクセがあるように思う。
で、僕はそのクセ、方向性を、「良い」と感じたわけだ。
ある意味、自分にとっては理想的な場所ではないかと思ったわけだ。
耳の良い人であれば、IC、オペアンプによる音を、「嘘くさい」と感じるかもしれない。
だけれども、オールディスクリート、トランスフォーマーカップルド、真空管搭載、の、ダークでヴィンテージな音が、果たして僕がこれから作る音に、本当に必要か。
正直でオーガニックな音、を目指したとして、そこでPuristになり、突き詰めていくと、それこそすべてをアナログにしないと気が済まなくなるのではないか。
マイク、入口、電源、配線、コンソール、テープ。たぶん他にもあるだろう。
そうやって何億円もかけて、本当に純粋なシステムを構築したとして、じゃあそれで作品を作りましたよ、と。
それが、コンピューターとデジタルのプラグインを使って作った作品と比して、本当に価値のあるものになるかどうか。
たぶん、ならない予感がするんだよなあ。
中途半端はよくない。
そして、言葉が矛盾するようだが、完璧なんてものは存在しない。
だから、自分なりの方向性を定めて、どこかで妥協しなくてはいけない。
現代のバンドマンの現実としては、コンピュータを使ったデジタル環境の中で、たとえばちょっとだけ真空管を通る、とか、トランスを通るとか、そういうことで納得するしかないが、それは気休めかもしれないし、慰めかもしれない。
本当のところは、進化したデジタルのプラグインが、本物のアナログ以上の活躍をしていたりして。
自分が「鍋島」をこれから作ろうとするにあたって、
レトロな音、ヴィンテージな音、みたいなのを指向するとして、
では僕が言うところの「レトロ」っていうのは、どういうことなのか。
案外と、それが安っぽいデジタルシステムの中に存在していました、なんていうオチは、僕は人生の中においては既に慣れっこかもしれない。
安っぽい環境で、せいいっぱいハイファイを目指したら、力及ばずレトロになりました、俺不器用なんで、
みたいのが、いちばん自然なのかもしれない。
たぶん今までもそんな感じだし。
調べなきゃいいんだけど、
調べれば調べるほど、
自分の求める理想の音、
「鍋島」に求める理想の「レトロ」は、
この世には存在しない、
(あるいは、何億円かけて、それでも届くかどうかわからない)
っていう結論が、身に迫ってきて、つらいんだよね。
まあ、実際に実機をさわって音も聴かずに、絶望する資格も無いっちゃ無いんだけれど。
作る前から、こんなに絶望感を味わうのは、わりと初めてのことだ。
今までは、別に気にせず、適当にやっちゃえー、って、作ってきたから。
だから今度も適当で良いのだが。
Don’t take yourself too seriously、だし。
—
現実的に考えれば、では、貧乏バンドマンな僕の予算で、
じゃあ、ちょっと気休めに真空管の入ったプリを買いましょ、
とやっても、
ではそういう本格的なやつは、
それこそ、本物はもっと高いお金を出さなくてはならず、
手の届くものは「気休め」に過ぎないかもしれない。
それこそ、突き詰めれば全部アナログコースになってしまう。
それを実現するには、がんばって商売で成功して何億円かけるか、あるいは、武道館を満員にできる人気バンドになって一流のスタジオで録りましょうね、か、どちらかだ。
(一流のスタジオであっても、いまどき、そんなものはあんまり無いかもしれないし、武道館を埋める人気バンドは、たぶんきっとフルアナログで録音したりしない。そして、無名のバンドの小規模なアナログは、あるいは自己満足でしかないかもしれない。)
だったら、ディスクリートではない、ICベースでなるべく良いもの、という方向性も、アリではある。
その意味では、そのMalcolm Toftなる人物が指揮を取って作った、PMI Meekは、僕は実用性は十分にあるように思う。
理想の音はどうがんばっても、しょせんこの世には存在しないのだから、
そのICを中心としたハイファイ天国の中で、ベストを尽くす方が、まだ理想に近いかもしれない。
基本的に素直でハイファイな中にある、独特のツヤ感は、僕にとってはわりと天国に近いかもしれないのだから。たとえICの「嘘くさい音」であったとしても。
(なんか、それこそ、Panteraの故ダイムバッグ・ダレルがソリッドステートのアンプにこだわっていたのと、同じことが言えないとも限らない。普通のギタリストは真空管の方がいい、っていうけど、彼はソリッドステートで、自分らしい音楽表現が出来たわけだ。)
—
しょせん自分は、高音というのか、ハイがクリアに出ていないと、ダメなタイプで。
それは、いつも言っているけれども、ギタープレイの表現が、その方が自由になるから。あと、いろいろ。また、あれで、霊の領域で、とか言い出すかもしれん。
普通は霊の領域で、とか、オカルト的な文脈で、アナログとか、ディスクリート、とか真空管とか言い出すものだが、僕は逆の方向になるらしい(笑)
オールディスクリートの本物の音で、太いけれども、素晴らしくハイファイで、けれども個性とか色はちゃんとあって、その方向性も、自分の好みのもので、そして、それであって自分の作品世界の中で、ちゃんと機能するもの。
そんなものは存在しない、と言いたいところだけれども。
じゃあ、それこそFocusriteのRedのマイクプリとか買ったら、解決するのか。
人によっては、それで解決するんだろうなあ。
そして、それが数十万円で解決するのだったら、きっとそれは安いものなんだろう。
っていうか、すごく安い気がしてきた(笑)
この文脈でトークしていけば、僕は音響機器のセールスマンになれる気がする。
じゃあ、ローン組んでFocusriteのRedを買おうか。。。。。
(遠い目)
(普通の人だったら、この流れで、本当に買うと思う)
>>(つうか、Redっていうのはもう現行品ではないのか、歳が、汗)
—
あまり上手く伝わらないかもしれないが、
自分が絶望したのは、
しょせんオーディオなんて言っても、
それは民生用オーディオであれ、録音制作用のレコーディング機器であれ、
あれだ、この前、Poorly Drawn Linesのネタで、
ケヴィン君がガイコツを掘り当てた時に、
「考古学は泥棒と詐欺師のゲームだ。そしていつの日か、悪魔を掘り出すのがオチだ」という。あるいは何かの映画とか元ネタがあるのかもしれないが。
結局、オーディオ、録音のプロオーディオの世界であっても、それはまさに同じで、
詐欺師と商売人のゲームなのだ、というのを、すごく感じてしまって。
そして、求めるものは永遠に手に入らない、という(笑)
だったら安物でいいじゃんよ、というのも、ひとつの人生ではある。
立ち位置の微妙なPMI Meekを側に置いて、「お前も不憫なやつだな」って言って可愛がってやればいいではないか。
俺様の自慢のシステムだぜ、というよりは、
しょせん僕なんかはこれで十分です、っていう方が、精神状態としては理想に近い。
ずっとそうやってきたし。
嫁さんと同じではないか。
あばたもえくぼ。
うちの嫁とて、決して万人受けする美人ではないが、自分にとってはあらゆる意味で理想の女性だったのは事実だ。
自分の音楽にとって、機能するものであれば、それが一番いい。
その「嫁」を選べと言われているんだろうな。
ギターについては、「嫁」「恋人」ではないけれども、その自分の理想の答みたいのは見つけてしまった。俺の人生はこれですよ、っていう。
そして、それは、別にヴィンテージレスポールでも、Pre CBS Fenderでもなかった。ブティックブランドですらない。
録音の上でも、貧乏人の手の届く範囲、情けない自分の立ち位置でいいから、考えろということなのだろう。
さて、答を急いで出す必要はないので、きっとまだまだ考える。
一年後には、普通にUniversal Audio 610とか710をゲットしている可能性もある。。。。
でも、しょせん貧乏デジタル録音環境でやっている以上、何をやっても気休めだと思う。
でも、それで気が休まるのであれば安いものかもしれない。
今日はここまで。
お付き合いいだだきありがとうございます。