またひとりごと日記です。
もう先週のことになっちゃいますが、木曜と金曜と二日間かけて、ギタートラックの録音をしてきました。今、録音作業を進めている、”Revive The Nation”という名前のアルバムというか作品です。さて発表するのはいつになるやら。
2月にドラム録音して、3月はいろいろ準備して4月にベース録音して、5月にやっとギター録音だよ。でも5月中にギター録音終わって良かったよ。
これで梅雨に入ると湿っぽい音になっちゃうし、夏になったら暑苦しい音になっちゃうからねー。5月のさわやかな気候のときに間に合ってよかったよ。
で、今週からヴォーカルトラックを録音しないといけないんですが、ともかく。
今回、ギター録音は、ちょっと初めてのことがありました。
というのは、昨年あたりから、ギターとか楽器とかギターサウンドということについて、ずいぶん考えて、いろいろ発見があって、ちょっとした楽器を手に入れて、ギタープレイヤーとして少しは進歩したと思うんですね。別に急に上手くなったとかじゃないけれど、エレクトリックギターのサウンドの本質というのか、ギターを鳴らすことについての本質について、ちょっと考えることが出来た気がするので。
で、何が初めてだったかというと、こんな良い楽器を使って録音したのは初めてだということでした。
別に、今までだって悪い楽器を使っていたわけではないし、
過去にはとても良いギターを使わせてもらったり、自分の所有するギターでももちろん良いものは使っていたけれど、
こんなふうに突き詰めたレベルにたどり着けたのはちょっとした成果でした。
最近とみにこう言って、こう考えるんですが、
昔は、自分が主体的に音楽をやっている感覚がまだあったけれど、
近年、年々、楽器の奴隷というのか、
自分はそれほど何も考えず、楽器の言うなりに、楽器に操られるように、
それは演奏とか音楽とかだけじゃなく、人生そのものが、
楽器にあやつられて、楽器の奴隷みたくなっていて、
でも、それは、人としては、困ったことばかりだけれど、
プレイヤーとしては必ずしも悪いことではないわけですね。
なぜって、楽器の声が聞こえるわけだから。
だから、演奏するときも、楽器の言う通りにしていればいいわけです。
今回、初めて、これほど「良い」楽器を使って録音してみて、
それは、とても楽だった点というのがあって、
それは、ギターの言うままにどんどん弾いていけばよかった点。
あまり、こちらの方で考える必要がなかったし、
自分が鳴らさなくても、
楽器の方で勝手に鳴ってくれた。
良い道具というのは、こういうことなのだと少し理解した。
今回の録音に使ったのは、3本のエレクトリックギター、
まずはHamerの97年製コリーナフライングV、Vectorというやつですね。
これ、1997年に限定で作られたやつで、
最近、Hamerのクロニクル本を読んだんですが、そこに載っていた当時の日本の代理店の広告に書かれている当時の定価を見て、ほとんど卒倒しました。そんなに高いギターだったのかよ、これ、って。悲しいかなこれはGibsonとかじゃないんで、中古のリセールバリューはあんましないんですね。
でもそのHamerの資料本によると、その当時作られたこの限定のコリーナフライングVとか、コリーナエクスプローラーは、Hamerの歴史の中でも最高傑作の部類らしい。そして今回の録音でもその真価は体感できました。さすが「うん十万」のギターだよ、つって(笑) まあ、そうはいっても輸入代理店がたっぷり上乗せしてたんだろうけれども。
次に、これは昨年出会った自分のギタリスト人生のファイナルアンサーである楽器、Bacchusの通称「猫ポール」ですね。フレイムメイプルの日本製レスポールなんですが。これ、値段はHamerの、定価ベースで考えても、売値で考えても、何分の一かってところなんですが、楽器としての実力はほぼ互角かなと。この数ヶ月、家でちまちまとデモ制作やパイロットトラック制作の折に、Hamerと競争させまして、今回のこの録音、12曲のうち、パイロットトラックの段階では3曲でHamerに軍配、あとの9曲には猫ポールに軍配が上がりました。これは、どうしてもHamerはフライングVなので、低音のかっちりしたレスポールの方がどうしても応用範囲が広いってことなんだけれど、果たして、スタジオでアンプでおっきい音鳴らしたら、この結果は変わるだろうなと予想していました。半々くらいになるんじゃないかと。で、この2本の最高のギターを比較して競わせながら、この曲にはどっちの楽器が合うかなと試しながら録音していったんですが。
結果、パイロットトラックの予想と少し違い、
Unlimitという曲は、Hamer Vectorが持っていった。
Hometownは予想どおりHamerが持っていったけれど、
Unknown Roadは予想に反して猫ポールが持っていき、
そして、予想では絶対にHamerの方が合うだろうと思っていたBorn To Rideも、猫ポールが持っていってしまった。
ギターとしての凄さっていうか、鳴り方で言うと、さすがにHamer USAの傑作フライングVは、めっちゃ鳴りで、こっちのが凄いかなと思うんだけれど、
フライングV独特の鳴り方をするので、なんというか軽やかなサウンドで、少し柔らかめな音ということもあり、どの曲にも合うというわけにはいかない。
けれども猫ポールの場合は、レスポールというギターの特性なのか、ほとんどどんな音でも出すことができてしまう。ので、結果として、こっちの方が採用される曲が多くなり、終わってみれば、12曲中、Hamerを使用したのは2曲のみで、あとはBacchus猫ポールを使用、けれども2曲のギターソロでは、MusicMan Axis-EXSのソリッドの赤を使ったのでした。まあ、そうはいっても、Hamerを使ったのは、アルバムの頭の2曲だから、責任は重大だよね。
猫ポールの表現力の多彩さということについては本当に思い知らされたのであって、いちばんヘヴィな曲から、繊細なアルペジオまで、本当によく表現してくれる。
ぶっちゃけ弾いていて気持ちいいのはHamer Vectorの方なんだけれど、Vectorが3種類の音が出るとすると、猫ポールは20種類くらいの音が出てしまう。
けれども気持ち良さっていうこともあり、軽やかなサウンドキャラクターは自分に合うことを考えても、ライヴとかツアーとかだったら、たぶん僕はHamer Vectorの方を持ち出すだろう。パフォーマンスとか見た目の問題もあるしね。
でもどうかな、もうちょっとHamer Vectorを使うべきだったかな。
すべてに満足しているわけではないし、面倒だしこういうのは自分は一発勝負なので、録りなおしはしたくないけれど、結果は作品が完成するまでわからない。
でもどちらにしても、すごく良いギターが録れたのは事実だ。
Hamer Vectorはひたすら弾いていて気持ちよいけれど、猫ポールの場合は、気持ちよいというよりは、ギターの方からいちいち要求してきたり、注文をつけてくる。必ずしも弾いていて楽しいってわけではない。「この下手くそ、もっとこういうふうに弾けよ」とギターの方から言ってくる。それはそれで、たまったものじゃない。けれども、ちゃんと耳を傾ければ、自分の力量以上の演奏ができる。その楽器とのインタラクションというものを、今回の録音作業を通じて本当に思い知った。
今回、アンプはスタジオにあるMarshallのJVM210を使用したのだけれど、
事前に書いていたように、オーバードライヴのチャンネルでも、クランチっていうか、いちばん歪まない緑のチャンネルしか使わなかった。
長いこと愛用しているCranetortoise/Albitの真空管ブースターに突っ込むことで、ギターの特性を生かした生々しい音を鳴らすことができた。
そしていちばんヘヴィなメタルコア的な曲や、現代ヘヴィネスな曲、スラッシュメタル的な曲まで、このクランチチャンネルで弾ききってしまった。
それはそれで、間違いなく、どんどんレンジが狭くなりどんどんダイナミクスがなくなってゲインばかりが上がっていく現代のヘヴィメタルサウンドに対する、自分のアンチテーゼでもある。問題提起ということだ。
おまえら、そんなギターサウンドでいいのか、という。
本当のヘヴィネスっていうのはそういうことじゃないぞ、と。
ゲイン低くてももっとヘヴィな音出せるんだよ、
ていうかヘヴィという概念を変えてやる、っていう。
そして、録音方法は、2本のマイクを使ったけれども、
低予算のDIY録音ではあるけれど、何度もやっていることなので、
果たしてギターアンプの音を、どのようにしてキャプチャーしたらいいか、
ということについては、自分なりのノウハウが出来てきたと思う。
とても生々しい音を録音することができたと思う、
思うの、だが、
そうは思っても、
今回本当に思い知ったのは、
本当の意味で「本来の意味で鳴る」エレクトリックギターを鳴らしたとき、
そのサウンドは、とてもじゃないけれど録音できるものじゃない、
とらえられるものではない、
とてもじゃないがキャプチャーできない、
ということを、身を以て思い知った。
だから、いにしえの昔、60年代とかの時代から、
現代に至るまで、
レコード、CDで聴けるギターサウンドなんていうのは、
やはり所詮、録音というか、
生のギターサウンドをそのままとらえられるわけじゃない。
というか、このサウンドを、とらえられるわけがない、
ということが、よくわかった。
周波数も、ダイナミズムも、音圧も、パワーも、アタックも、
すべて、録音機器の能力をはるかに超えている。
こりゃ無理だ。
トッププロやレジェンドが長い歴史の中で無理なんだから、
DIY貧乏録音している僕に、それができるわけがない。
だから、そのへんは割り切ってやるしかない。
というよりも、
自分は、今回、このように「本当の意味で鳴るギター」で、
本当の意味で真空管をドライヴさせて、
素直なアンプで鳴らした音、
それで録音するというのが、そもそも初めてだったわけだ。
今更ながら、本来、本物のエレクトリックギターの音というものを、
この歳にして初体験したと言っていい。
それはもう、衝撃的な体験だった。
なので、結果的に、そんなに爆音出していたってわけじゃないはずなんだけれど、
でもやっぱり非常にラウドで、
ヘッドホンでモニタリングも非常に無理があり、
リズムトラック、つまりドラムやベースをきちんと聴く余裕もなく、
アドレナリンが出っぱなしのままで、
がくがく震えながら必死で弾いた。
そしてなるべく数テイクで済ませるようにした。
ていうか、こんなのそんなに何テイクも弾けるはずない。
体がもたない。
心ももたない。
だから、リズムというかタイム感的にはかなり走ったギタートラックになったと思う。
けれども、それでたぶん良かったのだろうと思うのだ。
そして、同様に、ソロを弾く段も、非常に大変だった。
完璧でなくてもいいから!
テイク数はなるべく少なく!
そして、パンチインや、テイクをつなぎあわせることも極力なく!
とにかく走り切った。
とにかくにも、この「鳴るギター」を「ずっと使ってきた真空管ブースター」にぶっこんだときに、「あの音」が出ることに気付いたのが、録音の二日前のバンドリハ。
つまり、「こんな音」でギターソロを弾くこと自体が初めてなのだ。
もう、とてもじゃないがマイクでとらえることのできない倍音とアタックのきゅんきゅん、ぎゅんぎゅんっぷりに、
もう、顔をくしゃくしゃにしながら、顔弾きよろしく、悶絶しながら僕は弾いていたのだ。
それはもう、生々しいソロが録れたと思う。
2曲のソロで使用した、MusicMan Axis-EXSも良い仕事をしてくれた。
僕はAxis-EXは2本持っていて、2002年から使っているピンクと、2004年から使っているこの”EXS”の赤だけれど、
このEXSはアルダーのソリッドボディで、どちらかというとストラトに近い。
そして、まるでストラトの完成形のように、そして年月を重ねるごとに、まるでヴィンテージストラトのような鳴き方をするようになってきた。
ボルトオンのギターにはこういうことがあると思う。
ぶっちゃけボルトオンのギターは値段でもないし作りでもないと思う。
なんというか、気持ちいい音が出ればそれで勝ちというか、まさかの要素があるように思う、ボルトオンのギターには。
その、「万能型完成形ストラト」の持ち味を、十分に引き出すことができた。
たった2曲のソロであるが、とても印象的であろうと思う。
そもそもよく考えると、僕はこれまでこのAxis-EXSの赤を、結構ひんぱんに録音で使ってきた。ドイツで録音したときにも連れていった。あの作品でもこの作品でも使っている。実はそれだけ優秀なギターということだろうと思う。
ピンクのAxis-EXの方が音は高級で安定感もあり、バッキングを弾くには良いのだが、食いつくようなソロを弾くときにはこっちの方が勝る。
とにもかくにも、こんな音で弾くのも初めてだったし、
こんな音で録るのも初めてだ。
録音したトラックを既にだいたい整理しているが、
たとえ、その場で鳴っていた音の半分もキャプチャーできていないにしても、
それでも十分、生々しく、衝撃的な音を記録することができていると思う。
猫ポール、つまりそれはレスポールであるので、
しかもヴィンテージタイプの鳴り方をする楽器であるので、
速弾きをするのに適しているか、と聞かれれば、ぶっちゃけ適していない。
けれども、幸い、本物のヴィンテージよりは、現代的な音がするはずだし、僕はそれこそが今回のテーマだと思い、そのサウンドのままで弾き倒してしまった。
きゅいんきゅいんという決して速くはない立ち上がりのアタック、その音のままで弾き倒した速弾きのソロは、果たして成功なのか失敗なのか。
それはわからないが、でも新しい境地は開くことができたのではないかと思っている。まさに猫がぎゃーっとうめくごとく、わめきまくっていると思う。
それが、新しい時代のギタープレイ、ギターサウンドを切り開くことができているかどうかは、聴いてくれる人ひとりひとりに判断してもらうしかない。
正直なところ、
ミュージシャン、プレイヤーのはしくれとして、
自分の実力の無さや、結果の出ない時には、落ち込むことも多々あるが、
今回、こうして録音作業に取り組んでみて、
また、ここ最近の自分が取り組んでいたことが、こうして結果に結びついているのを感じ、
ああ、自分は間違ってはいなかった、というのか、
ここまでの境地に来ることが出来ただけでも、
たぶん自分の選択は間違ってはいなかった、と、
なんだかとても報われた気持ちになった。
たぶん、これでいいのだ。
世界で最高のエレクトリックギターとされる、
たとえば、59年製のレスポールや、58年製のフライングV、
それらは、もう何千万円という価値、値段がついているもので、
とてもではないが、僕ら無名のバンドマンに手が出るようなものではない。
けれども、今回、僕が取り組んだ録音、ギターサウンド、
つまり、Hamer Korina Vectorは、
「もし、伝説の58年フライングVを、無名のインディバンドが手にしたらどうなるのか」というテーマであるし、
笑うかもしれないが、Bacchus猫ポールは、
「もし、伝説のヴィンテージレスポールを、無名のインディバンドのギタリストが手にしたらどうなるのか」という仮想条件のテーマでもあるのだ。
もちろん本物の59レスポールなど弾いたこともないし、
むしろBacchus猫ポールは、それよりもモダンな味付けの楽器だと思うけれども、
それも含めて、本来のエレクトリックギターというもののサウンドと、その表現力が、どれだけ自分を導いてくれるのか、という実験。
その意味では、今回の録音は、自分をまったく未知の領域まで導いてくれた体験だったと断言できる。
とある曲のイントロで、無伴奏のギターソロから入る曲があるのだけれど、
それはフルピッキングでシンプルな速いシーケンスフレーズを繰り返すもので、
それはそれで難しいものだったのだけれど、
実は、録音の前日に、「これ、やっぱ変えよう。もっと華やかにしよう。」と思い立ち、
一年以上練習してきたそのフルピッキングの面倒なフレーズを放棄して、
前日の晩に、それ以上に面倒なタッピングのソロに変えてしまった。
どう面倒かというと、右手の指を3本使うタッピングなので、ちょっと難しいのだ。
当日、それを爆音のフィードバックの中で弾くと、余計に難しかった、が、なんとかやりきった。
ぶっちゃけ「弾いていて気持ちいい」Hamer Vectorをもっと多用すべきだったかもとも思う。
けれども、その無伴奏タッピングのソロも含めて、猫ポールの表現力と、いちいち弾き手に要求してくるあたりが、どれだけ今回の楽曲の可能性を広げたかわからない。
不可能が可能になった瞬間をいくつも見たように思う。
一人のギタープレイヤーとして、
こういう演奏ができるようになった、
こういう境地に立つことが出来たこと、
それだけでも感謝したい。
でもこれからだ。
これから始まるんだ。
そして、自分はまだまだ下手くそだと、
そう猫ポールに言われている。
本当にしゃくにさわる楽器だ。
だからツアーには絶対にHamerを持っていく(笑)
今週はヴォーカルトラックに取り組む。
その予定だ。
ハーモニーをつけるのが難しい曲ばかりだ。
どうか良い発声ができますように。