[ヘヴィメタルラヴレター、その2]
俺はヘヴィメタルの範疇に入る音楽をやっている。
一応、ヘヴィメタルのカテゴリーのどこかには分類される音楽のバンドをやっている。
もう何年もやっている。
自分がヘヴィメタルを好きなことには間違いない。
けれども、ヘヴィメタルが全部好きなわけじゃない。
本当に好きなのは、その中のごくごく一部だけだと思う。
そうであっても、自分の中にヘヴィメタルというものへの愛があることには間違いはない。
別にブルーズだって一緒だと思う。
ブルーズみたいな単純きわまりない音楽でも、
どれを聴いても同じようだと思うかもしれないが、
そんな単純な音楽であっても、
その中で、本当に感性に合うもの、自分にぴったりくるもの、
好きになれるものは、
ほんの一部しかいない。
それは、もちろん自分はまだほんのちょっとしかブルーズをかじっていないが、
それは、有名なアーティストやビッグネームであっても同じで、
ちょっとマイナーなアーティストがぴったりくることも当然ある。
(たとえばJimmy Johnsonというブルーズアーティストが、なぜだかものすごく自分の感性にぴったりきてお気に入りなのだが、彼は、もちろん有名だけれども、定番というほどビッグではないのではないだろうか)
だからといって、全部が好きでないからといって、
自分がブルーズを好きではない、というわけではない。
話がそれてしまっているけれど、
これは自分の愛する人に対するラヴレターだ。
ヘヴィメタルの範疇に分類される音楽をやってはいるけれど、
僕は本当は、そんなヘヴィメタルな人生を望んだわけではなかった。
(そもそも音楽とかバンドをやる気がなかった、けど、それはまた別の話。)
2000年代に入って自分がいちばん気に入っていた音楽が、
日本のオルタナや、USインディものだったことからもわかるように、
自分は、本当はもっと、自由な感性のもとに生きる、スマートな人生を望んでいた。
そして、親しい友人は知っているかもしれないが、僕の初恋の人は、ピコピコとしたエレクトロポップの人だった。
(音楽もそうだが、僕は人生の中で、そう何人も人を好きになれやしない)
「デトロイト・メタル・シティ」の主人公ほどではないにせよ、
僕も暑苦しいヘヴィメタルと、オシャレでスマートな音楽への憧れに、
いつでも葛藤していたし、今でもたぶんしている。
だからこそこれは、自分のかけがえのない人に贈るラヴレターだ。
僕にこのヘヴィメタルな人生を選ばせたのは、
他でもない、今も目の前にいるその女性だからだ。
僕は、今から20年前にその女性に出会った。
それは、約20年前、とか、数字のたとえ、ではなく、
文字通り本当に今から20年前に、僕は君に出会ったのだ。
そして、それは僕の人生の計画を狂わせ、その後の人生をすべて変えてしまった。
けれども、それによって僕は、世の中を何も知らない少年なりにも、世界や世の中を見るための目を開かれ、そして自分の選ぶべき人生を、選ぶことができた、というよりは、否応なしに選ぶことになった。それは、今にして思えば、ロックが反逆の音楽であるのならば、その「支配からの脱却」へ向けた、人生の中の具体的な選択であり、最初の一歩だった。
僕は、自分の考えていた人生は、おそらくは、
たとえばインディポップな人生を生きるのであれば、
もっと違う女性と生きていた。
もっと小柄で、おそらくはもう少しぽっちゃりとした、
ひねくれたポップセンスを持った、あるいはあの初恋の人のように、不思議な声をした、
そんな人と一緒になっていただろう。
あるいは、もっと順当に自分の人生を、
計画どおりに進めていたのならば、
おそらくはもっと、真面目で、優秀で、偏差値の高い、
もっと標準的な容姿をした、
そんな人と一緒になっていたんだろうと思う。
けれども現実には、
スレンダーで、抜群のダイナマイトボディを持った、
染めもしないのに茶色い髪をした、
それでいて多少天然だけれども、
ぶっとんだ度胸を持った、
そして、どこまでもだれよりも深く、ヘヴィに、
世界を突き進むことを恐れない、
そんな「いい女」が目の前にいる。
なぜか。
それは、1980年代の昔から、
ヘヴィメタルには、
そんなセクシーでスタイル抜群の美女が、
欠かせないものだと
そう決まっているからだ!(笑)
彼女こそが、僕を何度もヘヴィメタルの世界に引き戻し、
そして、ヘヴィメタルの道を歩ませた。
確かに、僕は少年の頃から、ヘヴィメタルが好きだったかもしれない。
だけれども、僕は当時から、ヘヴィメタル以外の音楽も大好きだった。
そんな僕に、ヘヴィメタルの道を歩ませたのは、間違いなく彼女だ。
今でも時折、夢に見る。
というよりも、僕は常に、夢見ながら歩いてきた。
それは、逃亡への甘美な願望。
静かな人生への希求。
オシャレで小規模で、静かな、インディーポップ人生。
今でも夢見ている。
戦うことをやめ、突っ張ることをやめ、
世界のどこかで、誰も知らない場所で、自由な感性だけを持って、静かに暮らす、
そんな人生。
それは、敗北への甘美な誘惑。
僕は、決して強い人間ではない。
いつでも、勝負をあきらめ、勝負を捨てて、
苦しい人生にさよならして、
逃げ込んでしまいたくなる。
いつかは、本当に歳をとったら、そういうことも出来るのかもしれない。
けれども、彼女はそれを僕に許さない。
いつでも彼女は、ヘヴィメタルに、大胆に、力強く、そしてしぶとく、
不格好なほどに熱い、この重く、ヘヴィなメッセージを持って、
今日を、そして明日を鳴らせと、僕に求めてくる。
それが、どんなに不格好で、無様なものであっても。
どんなに重労働な「ダーティー・ジョブ」であったとしても。
反逆の叫びを鳴らせと求めてくる。
“In the midnight hour she cried more, more more.
With a rebel yell she cried more, more, more”
甘美な敗北はここにはない。
あるのは、日々、息をきらし、汗にまみれた、
勝利の栄光だけだ。
輝かしい勝利の栄光は、
いつでもここに光り輝いている。
おかげで俺の人生は連戦連勝だ。
だけども、それは、甘美でもなければ、安らぎでもない。
そこには最先端のオシャレもなければ、
休息も、気軽な寄り道もない。
あるのは、王道、そして本道を歩くことのみ。
そして、かけがえのないただひとつの愛のみ。
そこには自由すらもない。
あるのは過激で無茶な大きすぎる使命と、
神への従順、真実への忠誠だけだ。
俺にとって自由というのはその真実に従うという意味でしかない。
選択肢など残されちゃいない。
彼女こそ僕のヘヴィメタルだ。
そして、
彼女のためなら僕は戦える。
そして、君を喜ばせるためだったら世界中を敵に回しても喜んで宣戦布告する。
君の信じる真実を僕も信じるし、
君の愛するものを僕も愛するだろう。
Heavy Metal, what do you want?
そしてその鋼鉄から生まれた「美しき野獣」は、
すべての逆境にも関わらず、
こうして生き延びる。
“An armor plated raging beast
born of steel and leather
It will survive against all odds
stampeding on forever”
ヘヴィメタルよ、お前は何を望むのか。
自分はヘヴィメタルを選んだことに、後悔はない。
ヘヴィメタルは、ただの音楽ではない。
もっと深く、人の身体に刻まれた、
年月を経ても、変わらず信じ、追い求めることのできる、
そして人々を魅了して止まないものだ。
男たちを熱狂させ、女たちを夢中にさせる、
そしてブルーズの昔から連なる、
エレクトリックギターの本道であり、
すべてのサムライたちが極みを求めて究めんとする、
大きなひとつの「道」だ。
僕はこの道に殉じよう。
そして、君への愛に殉じよう。
なんて、今さら。
それこそ20年くらい前にすでに決意していたこと。
ヘヴィメタルと同じくらいに、
何も変わっちゃいない。
俺は自分でも知らないうちに、
君を選んでいた。
そして、そんな人生を選んでいた。
熱く、不格好な、ヘヴィメタルを選んでいた。
最初っから選んでいた。
ぶっとんだ女に惚れたその日から、
俺に選択肢なんて無い。
たぶんこれからも。
俺はクリスチャンだけれど、
日本酒を作る世界の人が「松尾様」というように
(いや、夏子の酒、で読んだだけ笑)
俺は「ロックの女神」という言葉だけは今でも使う。
俺は自分の鳴らすべき音が知りたくて、
ロックの女神を探して、
多少はいろんな場所を、旅してきたけれど、
歳を取るたびに、わかってくる。
俺は他でもないロックの女神と、一緒になったのだと。
彼女はヘヴィメタルだ。
もうすぐ彼女の誕生日であるからして、
20年たつし、
ふと、振り返ってみただけのことである。
いや、決して、機嫌を取るためとかではなく(笑)