EQってことに関しては、
やっぱりEQっていうのは、いくらあっても困らないものだな、って。
もちろん、僕はアウトボードのEQなんて(小型マイクプリに付いてるやつを除けば)持ってなくて、全部プラグインなんだけれど。
いつのまにか、プラグインのEQも増えてしまい、それでも、まだ少ない方なのかもしれないけれど。
それでもお気に入りのやつとか、よく使うやつとか、色々あると。
道具っていうのは、特にEQっていうのは、たかだか特定の周波数を押したり引いたりするだけだと思っても、それぞれにぜんぜん違う。
インターフェイスってことについては特に。
操作性っていうのか、ユーザーインターフェイス。
見た目とか、ツマミとか、操作性。
それは、使う人、ユーザーと、その道具との関係性であって。
その関係性が、使い方、使われ方、どのようにしてどれだけ性能を引き出すかを決定する。
理想としては、ちゃんと使いこなして、どんな見た目であれ操作性であれ、100パーセントを引き出したいんだけれど、現実にはそうはいかなくて、やっぱり相性とか、人によって使い方とかが、やっぱりある。
そのユーザーインターフェイス、使い勝手、だけでも、EQというのはたくさん種類があってしかるべきなんだと思う。
録音、ミックス、ということに関しては、今まででいちばん「ちゃんとやった」と思われる、今回の「Overture」の制作だけれど、振り返って、どんな処理をしたかな、って見てみると、本当に実にいろんなことをやっている。
EQひとつとっても、本当にいろいろなEQを使っている。
それこそ、手持ちのEQのプラグインを、適材適所で、全部の種類を使っている、と言っていいくらいだ。
特に、僕みたいな日曜大工みたいなエンジニア初心者は、
パラメトリックEQがひとつあれば、それをちゃんと使いこなせる、って訳にはいかなくて、
それぞれの道具の、音も含めて使い勝手によって、行うことの出来る処理が限られてしまうので、へたくそなぶん、余計に道具が色々と必要なんだと思う。
でも、どれをとっても、やっぱり愛情とか愛着を持って、使い方を研究して、使ってあげることが一番だ。それが道具と自分の関係性ってやつで、その関係性の中でしか、僕たちは仕事をすることが出来ないからだ。
ミックスとか録音を今までいちばん「ちゃんとやった」ところの”Overture”だが、いわゆるエフェクトみたいのを、これまでで一番多用した作品でもあると思う。
聴いた人は、(うちのバンドの作品にしては)、色々なエフェクトを駆使してるな、みたいな印象をきっと持つに違いない。
それこそ、Valhalla DSPのUberModとか、Eventideのあれこれとか、お気に入りはいくつかあるにせよ、
今回、これは役に立った、ということで、書き記しておきたいのは、Unfiltered AudioのSandmanProと、Faultのふたつのプラグインだ。
これも、Plugin Allianceが毎月くれるクーポンとか、12月の安売りで、制作間際に運良く入手したものだ。
Plugin Allianceは、どちらかというとアウトボードのアナログの機材をモデリングした、EQとかコンプとか、そういう堅実な用途のプラグインを多く売っているけれども、その中で、数少ない飛び道具系のエフェクトを扱っているのがこのUnfiltered Audioのプラグインだと思う。
で、これって、はっきり言ってしまえばEventideっぽいというか、きっとEventideのパクリなんだよね。
Plugin Alliance流の、現代的なEventide風エフェクトの提示というか。
つまりはEventideのH3000とかそういう機材。
で、僕は、ここ一年くらい、エフェクトってことについて、ちょっとだけ考えていて、Eventideで言えばFissionとかH3000 Factoryとかもデモ版を試してみたんだけれど、
その上で、このUnfiltered AudioのFaultとかSandmanProとかさわってみると、ああ、これはパクリだ、とか、少なくとも、似たような方向性のプラグインだ、と。
そんで、Eventideはプラグインも高いけど、Unfiltered Audioのやつは、タダとかバーゲンで入手出来たから、これはちょうどいい、と。
Fissionはね、とても良いんだけど、僕のパソコンだと重くてね。ちょっと実用的でない、というくらい重くて。
僕はここ数年、すっかりEventideのファンだけれど、Eventideとルーツというか関わりの深いSoundtoysのプラグインを使っていないのは、何度も言うけどMacBookのバージョンが古くて、インストール出来ないからだって(笑) UADとか、その他の色々を使ってないのも同じ理由。
でもEventideも、Plugin Allianceも、(新しい製品を除けば)、まだ使えたんだよね。だから。
Fissionに関しては、素晴らしい可能性のあるプラグインだし、ギタープレイヤーの立場から言うと、アタック成分はそのままで、サステインというのかTonalの部分だけにコーラスとかハーモナイザーをかけることが出来るわけじゃない。それって、きっとギタリストにとってはメリットがあると思うので、かつてのH3000が当時のトップギタリストに愛用されてどのラックにも設置されていたみたいに、このFissionをギター用にチューンナップして、それこそEventideの最新のハードウェアに内蔵したら、ラックでなくてもH9のアルゴリズムでも、きっとギタリストからは歓迎されるんじゃないかという気がする。
で、H3000 Factoryのプラグインは、僕なんかには使い方が難しいし、プリセットをいろいろ試しておもしろいなーとか言ってるのが精一杯なんだけど。
前にも書いたけれど、ちょっと音が古いというか。
エフェクトも、古くて陳腐な感じがして。
もちろん、いろいろいじって、エフェクトを組み立てれば、もっと可能性を引き出せるのだろうけれども。
それに比べて、このUnfiltered Audioのやつは、ぱくりっぽいけど、もうちょっと音が現代的だし、プリセットもいろいろあるし、実用的じゃん。願ったり叶ったりだった。
例のクリスタルなんちゃらなピッチが上がっていくディレイもあったし、陳腐(such a cliche)ではあってもついつい使っちゃった。きっと聴けばわかる。
だから、このUnfiltered Audioが、今回僕にとっての、Eventide的な飛び道具エフェクトの箱になってくれた。
もちろん、Valhallaも使ったし、例のHOFA Systemも使ったし、その他にも色々使ったけどね。
で、mention出て来たので、ついでに書くと、HOFA Systemね。
昨年の今頃に、プリセールで、これも20ドルくらい馬鹿みたいな値段で入手した、いろいろ万能プラグイン。
内蔵されていた”AlgoVerb”は、結局「I」と「思い」の再ミックスで使うことになったし、十分に元は取った、というか取れまくりである。
実際のところ、そんなにイケてるプラグインじゃないんだよね。
HOFAのプラグインは、EQとかコンプとか、先進的な感じで評価高いと思うんだけれど、このモジュラープラグインであるSystemに関しては、ちょっとイケてない感というか、ダサい感がある。
確かに万能で、何でも出来るんだけれど、プリセットも、イケてるようでイケてないし、内蔵の各機能も、派手さに欠けるというか。
もちろん、AlgoVerbは派手なんだけど、TCリヴァーブを無理矢理濃厚にしたみたいなこのテイストは、必ずしも僕の音楽性だと「Go To」な感じにはならない。それっぽいわざとらしいリヴァーブが欲しい時には使うけど。
EQとかコンプも、SSLのコンソールを参考にした、とか言ってるんだけれど、確かにそれっぽいんだろうけれども、かといって、他社が出してる「モデリング」みたいにドンピシャって感じでもない。そのへんの、中途半端感が、田舎っぽいというか。ドイツの田園風景を思い浮かべてしまうというか。
でもね、一年ばっちり使ってみて、わかったのは、これは「地味な仕事」をしてくれる優秀な道具箱だってこと。
ここ一年でやったどの制作(大小もろもろ)でもそうだったんだけれど、今回の「Overture」の作業も、振り返ってみると、このHOFA Systemのプラグインは、力仕事というのか、汚れ仕事というのか、「主役だぜ」みたいな派手な用途ではないんだけれども、地味に「小さい事なんだけど、こういう処理が必要なんだよなあ」という時に、必要にして十分な柔軟性を持って仕事をしてくれるというか。
そういう、地味な支え役、二番手、三番手のプラグインとしてとても優秀な道具だったと思う。
で、そういう道具も大切だよね。
EQにしても、ゴージャスな音の、派手派手な主役EQもあれば、薄味で地味な仕事をしてほしいやつとか、それこそノッチでカットしたい時とか、いろいろあるじゃん。二番手、三番手も、大切なんだよね。
もちろん、派手なエフェクトも可能だから、そういう用途でも何度かは使ったけれど、縁の下的な、地味な処理をする上で、このHOFA Systemのありがたみを感じた。
ダサい印象だとは言ったけれども、もうすぐコーラス、フランジャーのモジュールがリリースされるらしいから、それってタダでもらえるんだろうか、と、期待している。
つっても、もう人生の中で、録音制作、あんまり予定してないけどね(笑)
あとは、リヴァーブかあ。
今回、ちゃんとやったとかいいつつ、結構、適当に「これでいいや」ってさくさくミックス進めちゃったから、リヴァーブとか、「いつものEventide UltraReverbでいいや」って言って、ほとんどはそれ。
とはいっても、Valhalla Vintageもちょっとだけ使ってるし、同じくEventideの2016 Stereo Roomも要所要所で活躍している。2016 Stereo Roomは、ミックスの中で自然になじみますよ、って用途だから、ぜんぜん派手な使い方じゃないけれどね。
あとは、一箇所だけ、WaveArtsのMasterVerbも使ってるな。贅沢だよねえ。
こうやって並べるだけで、僕のリヴァーブの好みってだいたいわかるよね。
理系っぽくて、操作系統が柔軟な、堅実なアルゴリズムリヴァーブが好きなんだと思う。古くさい好みだけれど。
で、認めないといけないのが、このアルバムの各所で、実はEAReverbSEを使っている、ということ。
あの、フランス産の、ちょっと嘘っぽい、わざとらしい奥行きの無いリヴァーブ。
これ、僕は当初、ひどいリヴァーブだなあ、とか言ってたんだけど、なんかそれはそれで嫌いになれなくて、廉価版のSEをいつのまにか入手していた。
で、そのおかげで出来た曲というのか、今回もある。
わざとらしいリヴァーブで、奥行きが感じられない、とか文句を言っていたんだけれども、特にしょせんロックの録音とかだと、その奥行きの無さが、かえって好都合な時があるみたいで。
ロックバンドの録音で使われてきた歴代のリヴァーブって、ちょっとそういうところあるよね。Lexiconなんかもきっとそうなんだろうし、それこそEventide 2016 なんてまさにそれだし。
ロックバンドの中で、ぱりっと音が収まる、っていう感じ。
自然な残響とか、そういうことではまったくなくて。
適材適所と言ってしまえばそれまでだけど。
だから音楽って面白いんだと思う。
マスタリング的な処理に関しては、
これも、最近ずっとPlugin Allianceがクーポンくれてたから、その中でBAX EQっていう、いわゆるBaxandallタイプのシンプルなEQなんだけれど、これのハイカットとローカットが、なんというか、ああ、これでやっと、安心してマスタリング(的な処理)の時にハイカットかけられるようになった、とか思って。
こんなのあるんだったら、もっと早く出会いたかったよ、って、心底思った。
ハイカットも、すればいい、ってもんじゃないんだろうけれど、僕も神経質だから、安心して任せられる道具、無かったじゃん。じゃあ別にいいよノーメイクですっぴんで世に出すよ、って、そういうふうだった、僕はずっと。
でもこれは、28kとか70kとか、意味のわからんところで切ってくれて、実際に結果もいいので、ああ、やっと出会えたー、つって。
やっとお化粧して作品を世に出せる、みたいな。
あとは、ずっと生き残ってるプラグインでT-Racks ClassicsのMultiBand Limiterがあるんだけれど、これも良し悪しというか、欠点があるのもわかってるんだけれど、初代T-Racksのプロセッサーの中で、EQやコンプが他のプラグインに取って替わられても、これだけは生き残ってる。それは、マスタリングなんていう高度で謎っぽい処理を、素人の僕が自前でやっちゃうには、こういう道具が必要だから。
で、副作用もあるし、やめようかなとも思ったんだけれど、結局今回も使っちゃった。でも、使わなかった曲もある。耳のいい人なら判別がつくかもしれない。
最終段のリミッターは、今回、BozのThe Wallに任せてみた。
これも、確か2016年の秋くらいに、プリセールで、確か18ドルとか16ドルとかそういう感じだった(笑) ネーミングの募集してて、トランプさんの演説にひっかけてジョークでこの名前になったんだけど、非難轟々だったみたい(笑)
で、これには伏線があって、2016年の夏に、歌の入ってない「鍋島デモ」の最初のバージョンを作った時に、IKのStealth Limiterをデモ版を使ってみたんだよね。
で、これは確か似たような名前の日本製のリミッターが流行してたから、それをIKがぱくって、というかインスパイアされて出したものなんだろうけれども、まさにInvisibleで透明感のある音色は確かに衝撃だった。
けれども、最終的に出来た音は、僕は気に入らなかった。
なめらかすぎて音にパンチが無くなっちゃったから。
(使い方が下手なのか)
そういう伏線がありつつも、似たような方向性を持ちながら、もっと音色の幅に選択の余地がありそうな、このBoz Digital LabsのThe Wallを拾ってしまったわけだ。
で、鍋島デモの公開バージョンであれ、昨年やってた小さな制作であれ、最近は僕はマスタリング的な処理の最終段は、bx_limiterを使ってたんだけど、あれも小さいけれど、しっかりした音なんだけれども。
今回、もうちょっと色気があってもいいんじゃないかと思って、The Wallを立ち上げてみたら、ばっちりだった。
操作は簡単で、スライダーを右か左にずらすだけなんだけれど、要するに、左に行くほどリリースタイムが伸びて、スムースな音になるじゃん、で、右に行くともっとアタックの感じられるオープンでワイルドな音になる。やっぱり僕としてはどちらかというと右に行くことが多かったけれども。
難しいんだよね、リミッターのリリースタイム。
曲によっては、短いと歪んじゃう時もあるし、かといってリリースタイムを長くすればいいか、というと、必ずしもそれで望んだ結果が得られるとは限らないし。
今回も、とある曲で、ギターの音とか全体では、右に行きたいんだけれど、ヴォーカルの都合でどうしても左に行かざるを得ない曲とか、あったり。
でも、今回はThe Wallは、音楽性にぴったりだった。
透明のつるつる、に、なり過ぎず、かといって十分にスムーズに、自然な処理はしてくれる、という感じ。
これも、もうちょっと早く出会いたかった系かもしれない(苦笑)
僕は正直、インターサンプルピークはあまり気にしない方だから、でも単純に耳で判断して、オーバーサンプリングをx8にしてしまうと、ちょっと「流行りのつるつるした音」になり過ぎる気がしたので、結局、x4のセッティングで全部やった。間違ってるかもしれんけど、俺はそう感じた。
それでも、今までの作品にくらべればインターサンプルピークも少なくなってると思うけどね。。。(汗)
結局、気が付いてみれば、ヴォーカル用のコンプレッサーも、このBozの10dBがメインになってるし、デジタルのプラグインの世界ではありますが、こういう道具を世界中の無名のミュージシャンのために提供してくれる人たちは、ありがたいですね。
でも、その中からどういうものを選んでいくのかは、自分の価値観であり、人生観であります。