ジーザスギター降臨

 

まずはソーシャルメディアっぽいわかりやすい投稿から・・・

 

これが7月のUSAツアーで使った僕の新しいメインギター、White Graceだ!!

モデル名: Bacchus Grace-AT/BW (Custom Series)

これはクリスチャンメタルを演奏するために作られたギターなのか。
あるいは僕は、ジーザスギターを手に入れたのかもしれない。

簡潔に説明しよう。
この楽器のポイントはここだ。

– 僕が2013年以来大ファンであり信頼する日本の楽器メーカーBacchus(Deviser)さんによって作られた楽器。もちろんMade In Japanだ。

– クリスチャンメタルを演奏する「ジーザス・ギター」とするため、自分でペインティングを施した。

– 白いボディはキリストの罪の無い神聖さを表す。そして赤いペイントはもちろん十字架の上で流されたジーザスの血を表現している。

– ボディ右側の十字はもちろん十字架を表現している。だが、ちょっと和風なテイストになり、「るろうに剣心」っぽくなった気もしている。

– ヘッドに施したxxxxのペインティングは、crown of thorns、すなわち茨の冠を表現している。(その結果、Bacchusのロゴは隠れてしまっている)

– その上でモデル名が”Grace”というのはあまりにも出来過ぎている。まさにクリスチャンメタルを演奏する僕のためにBacchus/Deviserさんが作ってくれた楽器!!(のように思っている)

– イエス・キリストを表現しようと思ってペインティングを施したが、結果的に、everything 80’sとでも言おうか、80年代メタルを表象するルックスとなった。

– ペインティングを施した結果、僕が10代の頃に愛用していた「最初のギター」と同じデザインとなった。それは日本製の白いJackson Soloistに、Van Halenの1982年のアルバム”Diver Down”の裏ジャケの意匠を真似て、赤いテープを貼ったものだ。今回、この白いギターに「キリストの受難」を表現したいと思い、赤いペイントを施した結果、奇しくも少年の頃に使っていたギターの再現となった。

– その10代の少年の頃に使っていたJackson Soloistの写真も添付しておこう。この”White Grace”は、僕にとってはその青春時代のギターの再来でもあるのだ。

ライブでの使い勝手はこれまでで最高。(サウンド、ルックス、取り回しの良さ)
ついに運命のギターに出会った気がしているぜ!!

 

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ペイントを施す前。
ペイントを施した直後。

 

 

ではやたらと長いブログ本編をどうぞ。

 

7月のアメリカ遠征で使用したギターについて書き記しておきたい。

さっくりとスペックや特徴を書こうと思っただけなのだが、このギターをツアー用メイン、ライブ用メインとして選ぶまでの経緯や、自分なりの理由を書き記そうとしたら、予想して以上に文章が長く、そしてくどくなった。

そのぶん、率直な思いは書かれていると思うので、興味のある方だけ目を通していただけたらと思う。

 

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僕は、前回、一昨年にアメリカを訪れた際には、HamerのUSA製のフライングVを持って行った

一昨年、2022年に行ったそのアメリカ遠征は、バンドとしては実に10年ぶりのアメリカツアーであった。そして、それはThe Extreme Tourというクリスチャンミュージックのツアーに乗っかった形の遠征だった。

 

前にも何度か書いた事があると思うが、僕はこれまで、アメリカに演奏に行く際には、なぜだかいつもフライングVだった。

そこにはいくつかの理由がある。
前の記事で書いたように、僕はもともと、どちらかといえばGibson派だ。それはGibson社のギターという意味ではなく、セットネック構造でハムバッキングピックアップを搭載したギターという意味だ。

そして、なかなか自分の音楽スタイル、プレイスタイルに合う楽器が無くて苦心していた僕にとって、58年スタイルの「コリーナV」は意外としっくり来る楽器だったという事も大きい。67年スタイル以降のミッドレンジに音が集中したフライングVではなく、レンジが広くどちらかといえばテレキャスターに近いようなシャキッとした「コリーナV」のサウンドは、僕の音楽スタイルには比較的しっくり来た。

もちろん、当初はEpiphoneの安物だったが、それがインドネシア製のHamerになり、最終的にUSA製のHamerを手に入れた。
そんな感じの僕のギタリスト人生におけるフライングVとの関わりは、以前にもブログに書いた事があると思う。

 

 

フライングVを「ツアー」「遠征」「海外」みたいなオケージョンによく使用していたのは、ひとつには取り回しがいいからだ。軽いし、意外とサイズもコンパクトだし、運搬の上でもステージ上でも取り回しがいい。そしてブリッジの構造も単純なので、弦交換も楽だ。

前にも書いたが、「遠征」「ツアー」みたいな時には、この弦交換の問題がある。大物ギタリストなら、ローディーの人が全部やってくれるのかもしれないが、僕らはしがないインディバンドだ。全部自分でやらなければならない。僕はピッキングも強い方だし、ステージでも飛び跳ねる方だし、ややこしいリフを弾きまくるプレイスタイルのせいもあって、弦は毎回、毎日交換する必要がある。二日目のショウでは高確率で弦が切れるからだ。ショウが終わり、宿に戻り、ケースを開ける。するともう弦は錆びている。ステージで相当を汗をかくからだ。だから弦は毎日交換する必要がある。
ハードなスケジュールと睡眠時間を考えると、弦交換は簡単な方がいい。フロイドローズのギターを持っていけないのはそれが理由だ。

 

そして、何よりもやはり見た目の問題がある。
うちのバンドにはずっと付きまとっている問題だ。
つまり、うちのバンドは幸か不幸かスリーピースなのだ。

僕は、どちらかといえば、歌いたくて歌っているわけではない。
これが4人編成のバンドで、シンガーというかフロントマンが居るのであれば、僕はそれほど見た目に気を配る必要はない。バンドのビジュアル的な要素、観客の目を引きつける役目はシンガーが担当してくれるからだ。
そうであったなら、僕は「普通のストラト」とか「普通のレスポール」を弾いていてもショウが成り立つ。

だが、うちのバンドはスリーピースで、僕はシンガーでもあるぶん、ある程度の見た目の上での主張、ビジュアル的なステイトメントを、個性として打ち出さなくてはならない。

音楽性や、バンドのキャラクターを考えてみても、ある程度個性的な楽器を持たないと、ショウが成立しない。

そういった意味でも、フライングVは自分たちの方向性に適した楽器だった。

 

 

過去10年ほど愛用してきた、このMade In USAのHamerのフライングV、Hamerで言うところの”Korina Vector”は素晴らしい楽器だ。

「ちゃんと作られたセットネックの楽器」として、たぶんヴィンテージと比肩出来るくらいによく出来ている。
これまでもいくつもの重要なライブにおいて、その威力を発揮してくれたし、一昨年、2022年に久しぶりにアメリカに行った際にも、ばっちりその性能が発揮された。

 

だが、かといって、その音に100パーセント満足しているわけではない。

音だけで言えば、僕はやはりレスポールの方がいいのだ。
だが、海外ツアーに大事なレスポールを持っていくのは、やっぱり抵抗がある。
それは、セットネック構造のギターはネック折れ(ヘッド折れ)の危険が高いからだ。
フライングVはそれでも軽いので、なんとなくまだマシかな、という感じがするのだが、レスポールはそれなりに重量があるので、飛行機に載せる際に、なんとなくヘッド折れの危険性が高い気がしてしまう。(とはいえ、ケースがちゃんとしていれば大丈夫かもしれないが)

 

そして、前述の通り、見た目、ルックス、ビジュアルの面でフライングVには優位性がある。

確かにフライングVはレスポールに比べるとちょっと音の重心が腰高というか、音が軽い傾向はあるのだが、レコーディングではともかく、ライブの現場ではそれよりも派手な音で鳴ってくれる事の方が大切だったりするし、速弾きみたいなプレイも結構やりやすいので、やはりフライングVは、ライブの場で生きる、ライブで使ってなんぼのギターだと言える。

 

どんな場面においても100パーセント満足出来る完璧なギターなどというものは無い。

そしてまた、道具である以上、それぞれに適した用途がある。
レコーディングで使うギターと、ライブで使うギターでは、また考え方が変わって来る。

見た目の問題、取り回しの良さ、プレイヤビリティといった要素はもちろんだ。
だがレコーディングの場合には、それぞれの楽曲に合わせて、もっとも適した楽器を選ぶという事が可能であるのに対して、ライブの場では多くの場合、一本の楽器で様々な楽曲を演奏しなければならない。

だから、サウンド的にもプレイヤビリティの面でも、様々な曲に対して対処出来る総合点みたいなものが優先される。

 

これまで僕が海外遠征(まあバンドでツアーした事があるのはアメリカだけなんだけど)の際に、フライングVを持って行ったのは、実際のところ、選択肢がそれしかなかったからだ。

日本製の大切なレスポールを持っていくのは抵抗がある。

飛行機に載せるにあたって、ボルトオン構造のギターであれば、ネック折れ、ヘッド折れといった破損の心配は少ない。だが、セットネック派の自分としては、ボルトオンの楽器ではしっくり来ない。

HamerのフライングVは素晴らしい楽器だが、僕はアメリカ製の楽器に対して心理的な思い入れは少なく、取り回しがいいぶん、気軽に持ち出せる。そして、ちょうどいいハードケースも所持していた。これでいいかな、となる。だからこれまでは、いつもフライングVだった。

(そして、一昨年には初めての「ネック折れ」というのか「ヘッド破損」に見舞われた。このへんの振り返りも、よく思い出すと5月頃に記事を書いていた。スケジュールのタイトな今回のツアー計画の中では、楽器にトラブルがあった場合、対処する時間が無いので、リスクは避ける必要があったのだ。)

 

 

だが、今回のアメリカ訪問にあたっては、他に選択肢があった。

ライブ、海外ツアーという、多くが求められる場において、こいつならやれる、と思えるギターが、フライングV以外にもあった。

それはボルトオン構造のギターだった。

2013年にBacchusの日本製のレスポールに出会って以来、丁寧に作られたセットネックのギターが最高である、と考えていた僕だが、ボルトオン構造のギターで初めて、「これなら命がけのツアーを共にすることが出来る」と思える楽器に出会った。

 

それは、モデル名で言えば、Bacchus Custom Series Grace-AT/BW という機種のギターであった。

 

これは昨年、BacchusさんがHandmade Seriesの生産停止を発表した際に、きっと日本製のBacchusは稀少になるだろうと思い、今のうちに手に入れておこうと思い立って中古市場で入手したものだ。

値段的には決して高いものではない。ユーズドということもあって、10万円以下で手に入るものだ。(Bacchusさんは未だに中古市場においては最高クラスのものであっても安価で手に入る事が結構多い。それはそれで、複雑ではある。しかし金額的な事についてはあまり言わないでおこう。)

 

僕は2013年の秋にBacchusの日本製レスポールに出会って以来、Deviserさんとこの楽器のファンになった訳だが、Bacchus(Deviser)さんの楽器には、メタル、ハードロックに適した楽器は少ない。ブランド的にも、BacchusもMomoseも、もっと普通の、見た目的にも地味な、一般的なモデルが多かった。

だが、フィリピン製のBacchus Global Seriesからは、時折、メタル/ハードロックの匂いがする楽器が、たまに、という程度ではあるが、出て来ていた。
僕はそのフィリピン工場で作られたGlobal Seriesの楽器が結構好きで、何本か手に入れていた。それらは多くの場合、びっくりする程に安価なものだった。だがそれは決してチープな楽器ではなく、多少の欠点はあるにしても、面白い個性と、本質的なクオリティを持った「使える楽器」だった。

そういった経緯があって、僕はフィリピン製のBacchusは結構ファンというか、贔屓にしていたのだ。日本製のセットネックの楽器をすでに3本所有していたこともあり、それらは日常的に気軽に使う事の出来るボルトオン構造の楽器だった。

 

そのフィリピン製Global Seriesの楽器の中に、”Grace”というモデルがあった。
それはBacchusさんにしては珍しい、往年のハードロックの匂いがする楽器だった。

ウェブを検索してみる限り、もともと、この”Grace”というモデルは、2013年頃に、イケベ楽器とのコラボレーションとして、Deviserブランドで作られた楽器のようだ。
24フレット仕様でウィルキンソンブリッジを搭載した、2ハムのスーパーストラトタイプの楽器である。
その2013年仕様のギターは、高級機としてデザインされ、価格も高額だったようだ。

しかし2018年から2019年くらいにかけて、この”Grace”というモデルが、Bacchusブランドで復活し、Global Series、そしてCustom Seriesとして作られることになったようだ。

 

このウェブサイトのブログにも書いた事があると思うが、僕はどういったわけか、その復活したGlobal SeriesのGraceモデルのシリアルナンバー「1」(100001)を所有している。
そのモデルを、僕は2019年から所有し、すでに何曲ものレコーディングに使用している。(たとえば”Nabeshima”に収録されている、わりと人気のある曲のひとつである”Sonic Soldiers”なんかがそうだ。あとは”To Rome”EPに収録されている”Return To Me”もこのギターだね。)

 

また、シリアル”100036″のオイルフィニッシュのモデルも一昨年の遠征の後に入手し(二束三文で)、それは非常に面白い個性的な楽器で、そのギターは昨年レコーディングし、これから発表するところのアルバム”Coming Back Alive”で大活躍しており、半分以上の楽曲で使用している。

 

 

Bacchusさんの作ったメタルっぽいギターということで、また”Grace”なんていうモデル名にもクリスチャンロッカーとして縁を感じる所があり、僕はこの”Grace”という機種に関してはとっても気に入っていたのであるが。

その最終形とも言える、Custom Seriesのアーチトトップモデルを、そんな経緯で昨年末の頃、ついにというか、ようやくというか、僕は手にしてしまったわけである。

 

もともと、このGraceというモデルには、僕はVan Halen的なものを感じていた。
それは、80年代、もしくは90年代のカリフォルニア的な、アメリカンな雰囲気の陽気なスーパーストラトという意味合いだ。

形としては一般的なスーパーストラトの域を出ないものの、僕としては、これはBacchusさんにおけるPeavey Wolfgangの解釈ではないかという印象を持っていた。

そして、アーチトトップ形状を持ったこのCustom Seriesの最終形を見て、僕の中でその印象はより一層強まった。
もう一度言うが、形としては、一般的なスーパーストラトの域を出ない。だが、その内容は、Van Halen的な、ハードロック用スーパーストラトをBacchus流にビルドしたものであるという印象を、僕は強く持ったのである。

 

僕の中にもやはり、頭の中で、心の中で追い求めている音というものがある。それは知らず知らずのうちに、追い求めているものだ。

Eddie Van Halenが最後のツアーで持っていたギター。2015年のVan Halen最後のツアーにおいて、エディ・ヴァン・ヘイレンが使用していた、レリック仕様の白いEVH Wolfgang。僕は、めちゃめちゃかっこいいと思った。
それは、僕の中では、尊敬する偉大な巨匠が最後に辿り着いたサウンド、その境地を象徴するものだ。

 

だが、僕が頭の中に思い浮かべるその音は、現実にはその楽器からはおそらくは鳴らないであろうという事を、僕は経験的にすでに知っている。

その白いWolfgangから僕が期待する音は、高価なEVHのレプリカからは鳴らない。その音は、手元にあるこの白いGrace-AT Customから出るのだ。

その事実に気付くのに、そんなに時間はかからなかった。

 

 

このGrace-AT/BW (Bacchus Custom Series)は、バッカスさんの歴代のモデルの中で、数少ないハードロック、ヘヴィメタルを志向した機種の中では、ひとつの最終形であり到達点ではないかと思っている。

昔のBacchusさんのカタログを見ると、Progressiveという、いかにもプログレ的、ハードロック的、マニアの心をくすぐるようなモデルがある。
また、24フレット仕様の「シュレッド」的なギターとしては、Empireというモデルが存在したようだ。

このGraceというモデルは、それらのモデルの延長線上にあり、またそれらの要素を最もエレガントな形で、Bacchusさんの流儀でまとめ上げたもののように思われる。どちらにしても、Bacchusの歴代モデルの中で最もVan Halen的な要素が色濃いという意味において、僕にとっては、最もしっくり来るモデルであると言っていい。

 

 

このGrace-AT/BW (Custom Series)というモデルは、僕にとっては、かのEVHの背中を追いかける中で、自分もやはり向き合う事となった「GibsonとFenderのいいとこ取り」を、高いレベルで実現している楽器だ。

何度も言っているように、僕は「丁寧に作られた日本製のセットネックのギターこそが至高」と考えている。だが、このGrace-AT/BWは、ボルトオンの楽器でありながら、レスポール志向のプレイヤーを満足させるような音の太さや厚みを持っている。

 

Bacchusの楽器の中では、この”Custom Series Grace-AT/BW”は、決して「鳴る楽器」ではない。モダンヴィンテージの流れにあるBacchus/Deviserさんとこの楽器は、大抵の場合、やたらと鳴る。
その中では、このGrace-AT/BWは、鳴りに対して「適度にブレーキが効いている」方ではないかと思う。それは、Bacchusさんにしては薄めに仕上げられたネックや、同様にコンパクトに仕上げられたボディが物語っている。だが、それがなんだか、ちょうどいい。

 

プレイヤビリティ、シュレッダビリティは素晴らしい。Bacchus/Diviserさんの伝統的なモダンヴィンテージの鳴りを最低限保ちつつも、シュレッド仕様に寄せた設計は、人によってはIbanezやJacksonの方がいいと言うかもしれないが、僕にとっては文字通りの意味で有り難いものだ。

 

この楽器は、ボルトオン仕様の楽器の良いところをキープしながらも、Gibson的なセットネックに比肩するファットな鳴り方を実現している。
その理由は僕にはわからないが、いくつか気付く点はある。

 

ひとつには、指板の材だ。スペックの上では、この楽器の指板の材はブラックウッドとなっている。ブラックウッドがどんな木なのかは知らない。ググってみた限りでは、ブラックウッドと言っても、人工材であるBlackwood Tekなるものと、アフリカ産の木材であるグラナディラという二種類のものがあるようだ。これがどちらなのかはわからない。
しかし、僕に言えるのは、この指板は、僕がこれまで経験した中でも最高の指板のひとつであると言うことだ。
エボニーに似ているけれど、エボニーと良質なマダガスカルローズウッドの中間くらいのフィーリングで、弾きやすさや触感も素晴らしければ、サウンドもファットだ。
(もしこれが人工材であるとするならば、それはエコ的で素晴らしい材だと言わねばなるまい)

 

次に、アーチトトップ形状に作られたボディ材だ。
スペックによれば、(そしてネックポケットを覗いて見た印象から言っても)、ボディ材はトップがアッシュ、バックがアルダーという事になっている。どちらも定番材ではあるが、あるようで無い、あまり見ない組み合わせかもしれない。

 

おかしな事のように思われるかもしれないが、僕はアルダー材があまり好きではない。
アルダーと言えば、歴史的にFenderのギターに使われてきた木材(ボディ材)であり、エレクトリックギターのボディ材としてもっともポピュラーな材であることは承知しているが、振り返ってみると僕はアルダー材を使ったギターがあまり好きではなかった。
独特の重さ、ピッキングした時の弾力というのか粘りを伴った跳ね返りの感触、どうもいまいち鳴らしきらない感じ(マホガニーと比較して)、ミッドレンジの妙に浮き上がった感じなどが気持ち悪いと感じる事が多かった。もちろん楽器によっては良いなと感じる事もあったし、またアルダー材の持つ「それらしい」ミッドレンジ(および低音)のサウンドは、録音やライブ等の現場で結果の出る音である事は理解していたつもりだが。

しかしこのギターの場合、アーチトトップ形状ということもあって比較的にボディがコンパクトで薄く、またそこに厚めのアッシュがトップ材として加わる事で、アルダーの個性を中和し、モダンでぱりっとした輪郭とレンジの広さを演出している。それでも、なんとなくアルダー材の「嫌な感じ」は残っているんだけど、バンド全体のサウンド、そしてオーディエンスの耳にはそれは良い方向に作用するようだ。アルダー材の持つ味や個性は残っているし、なかなか面白いボディ材の組み合わせだと思う。

 

もうひとつのポイントは、Gotoh製のロックペグ(マグナムロック)であるかもしれない。
恥ずかしながら、実は僕はロックペグを使うのは初めてだ。ロックペグの有効性、チューニングの安定性や弦交換にあたっての利便性は、また別の記事として書き記したいと思っているが、そういった機能性を別としても、検証してみたところ、このGotoh製のロックペグには、結果として音を太くする作用があるようだ。これは結果としての副作用というか、弦をロックした結果の副産物と言えるが、ペグポストの部分で弦をがっちりとロックした結果、ペグ/ヘッド部分での弦振動の伝達が強化され、鳴りが良くなる(音が太くなる)のではないかと推測している。
結構、これもポイントだ。

 

さらにもうひとつの小さなポイントとしては、これは僕が自分で施した個人的な改造と言うべきだが、ブリッジ裏にESPアーミングアジャスターを取り付けてある。
これは、僕はフロイドローズのギターを使う際には、結構な確率で使っていたものだ。過去2年にわたってライブ活動のメインギターであったSTR LJ-2(フロイドローズの付いたレスポール)にもやはりアーミングアジャスターが取り付けてあるし、僕はフロイドローズはどちらかといえばダウンオンリーのベタ付けで使いたいのだ。ギターの仕様によってはベタ付けにするのが難しい場合もあるので、ひとつの対応策としてESPアーミングアジャスターを使う事になる。(他にも色々方法はあると思うが)

 

この”White Grace”(ひとまずの通称)は、ウィルキンソンブリッジVS-100Nを搭載している。僕はウィルキンソントレモロの反応の良さや、比較的タイトで硬質な、フロイドローズから持ち替えてもそれほど違和感のない音質は気に入っている。
しかし、僕は基本的にはアームはダウンオンリーが好きな事と、もうひとつ大事なこととして、ドロップDの曲をやる際にチューニングを安定させるという目的があり、このギターにおいては、アーミングアジャスターを取り付けてトレモロを固定する事にした。基本的にダウンオンリーだが、頑張ればアップも出来る、といったセッティングになっている。そしてアーミングアジャスターを取り付けた結果、これも副作用というか副産物であるが、ブリッジ部分での振動の伝達が向上し、音がいくぶん太くなっていると思う。

 

これらの要素が合わさった結果、なんだかしらないが、この”White Grace”は、ボルトオン構造のギターでありながらも、セットネック構造のレスポールに負けないような、太く、密度が濃く、まるでチョコレートのようななめらかで濃厚なコクのある音を獲得している。

これが、僕がこのギターをライブ用のメインとして、今回のUSAツアーに持っていくことを決意した理由だ。ボルトオン構造のギターの利点を持ちながら、レスポールに負けないくらいのサウンドの美点を持っている。

 

ボルトオン構造の利点。
すなわち、頑丈で壊れにくい。ヘッド角度が無いのでネック折れの心配が少なく、安心して飛行機に載せる事が出来る。比較的軽量で取り回しがいい。
演奏面では、24フレットあって、アームも使えて、演奏の自由度が高い。最近やっている曲で、24フレットが必要な曲がいくつかあるので、ちょうどよかったのだ。Bacchusの楽器の中では比較的シュレッド仕様なギターなので、(レスポールと比べて)速弾きがやりやすい。ボルトオンギターのサウンド上の利点として、アタックがシャープで気持ちよく、キレのある音が出る。それでいて、レスポールのような「太さ、密度、濃厚さ」も併せ持っているのだから、まるで夢のようだ。

 

ギターはスペックでは語れない。
本当に優れた楽器の本質というのは、スペック上の数値や、カタログの宣伝文句では伝える事が出来ない。

それと同様に、この”White Grace”は、見た目上はアーチトトップ仕様のスーパーストラトに過ぎないが、その中身は、EVH Wolfgang以上に、ハードロックという土俵の上での「レスポールとストラトキャスターの融合」を高いレベルで実現している楽器のように思える。

 

 

そして僕は、このギターにペイントを施す事にした。

もともと真っ白なギターである。
このギターをツアーに持っていけないだろうか。そう考えた時に、この白いボディをキャンバスに見立てて、そこに自分だけの大切な何かを描こうと思ったのは自然な事だった。

 

そもそも機種名が”Grace”というモデルである。
しかも、Bacchusさんには珍しいメタル、ハードロック仕様を感じさせる楽器。
これは、Bacchus/Deviserさんが、クリスチャンメタルを演っている僕のために、作ってくれたギターだとしか思えない。(僕としては)

その白いボディに、キリスト教的なテーマの意匠を描く事は、僕の中で最初から決まっていた。
つまり僕は、イエス・キリストの受難と、十字架で流された血による罪の救済を、この白いギターに表現しようと考えた。

 

– 白いボディはキリストの罪の無い神聖さを表す。そして赤いペイントはもちろん十字架の上で流されたジーザスの血を表現している。

– ボディ右側の十字はもちろん十字架を表現している。だが、ちょっと和風なテイストになり、「るろうに剣心」っぽくなった気もしている。

– ヘッドに施したxxxxのペインティングは、crown of thorns、すなわち茨の冠を表現している。(その結果、Bacchusのロゴは隠れてしまっている)

赤、白、黒という3色によって彩られたそのペインティングは、キリストの受難を表現していると同時に、またVan Halen的な配色のモチーフでもある。

 

そして、どういった偶然だろうか。
このペインティングによる意匠は、僕が10代の頃、少年時代に愛用していた「最初のギター」である日本製のJackson Soloist。その白いギターに赤いテープで施したデザインと、まったく一致するものになった。
つまり、僕にとってはこのギターは、「最後のギター」であると同時に、人生最初のギター、青春時代の再来とも言える楽器となったのだ。

僕は10代の頃、Van Halenの1982年のアルバム”Diver Down”の裏ジャケの意匠を参考に、この白い日本製のJackson Soloistに、赤いテープを貼り、自分だけの楽器として愛用し青春を走り抜けたのだ。

その初心と情熱が、今、人生最後の到達地点として鳴らさんとする楽器の中に、そのままの形で甦った。しかも、キリストへの信仰という意味を伴って。
この偶然に、僕は結構、笑っちゃったものである。

つまり、十代の頃。14歳とか15歳だった僕は、きっとすでにわかっていたのだ。
未来において、これが運命の形となることを。
これが答えだという事を。
最初のギターは、預言でもあったのだ。

古い写真で解像度が低いが、2003年頃に撮影されたと思われる、日本製Jackson Soloist
このギターを人前で最後に弾いたのは2008年の事だ。
赤いテープが剥がれて斜めに走る意匠のみならず、十字架の位置までも一致している。(赤十字マークだが)

 

 

ペインティングを終えて、このギターは、サウンド、プレイヤビリティ、機能性の面だけではなく、ルックス、ビジュアルの面でも、これまでで一番の楽器となった。

先程も述べたように、僕がずっと遠征の際にフライングVを使っていたのは、ビジュアル面でのアピールが理由だ。

だが、このキリストの受難を表現したペインティングを施した事によって、この”White Grace”は、ビジュアルの面でも、フライングVを上回る楽器になってしまった。

 

それは、単純にルックス、見た目のインパクトというだけではない。
アイデンティティという大切な要素がある。

80年代メタル、Van Halenというアイデンティティ。
クリスチャンメタルというアイデンティティ。
こだわりを持った日本製の楽器というアイデンティティ。
そして、10代の情熱を鳴らし続けるというアイデンティティ。

この楽器は、確かに他のどんなギターよりも、自分のアイデンティティを表象し、証言してくれる。

58年スタイルのフライングVは見た目が映えるといっても、しょせんはその形は借り物の形だ。
だが、Deviser社、日本製Bacchusブランドの、Graceというオリジナルモデルを使い、そこにキリストへの信仰と、青春の情熱を表現する。それはたぶん、僕だけの形だ。

 

そしてこのギターを使い、新曲”Above & Below”を弾いてみると。
しっくりくるじゃないか。これ以上ないくらいに。

“Precious”を、”Sonic Soldiers”を、”Not Of This World”を、弾いてみると。
やはり、しっくりくるのである。そう、確かにこういう音だった、僕が鳴らしたかったのは。
そう思えるのだ。

 

あるいは僕はついに運命のギターに出会ったのかもしれない。
自分のシグネチャーモデルと言えるギターに出会ったのかもしれない。(無名のインディのギタリストだけど)

いや、きっと、たぶん、
僕は、クリスチャンメタルを演奏するための、ジーザス・ギターに出会ったのだ。

 

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ペインティングを施した結果、Everything 80’sとでも言うべきか、80年代メタルらしさを色々な面で象徴するようなルックスになったのも面白いポイントだと思っている。

Van Halen的でもあるし、RATTっぽくもあるし、George Lynchっぽさもあるし、Loudnessっぽい模様にも見えれば、聖飢魔Ⅱのジェイル大橋さんのギターにもちょっと似てるし、当時のLAメタルにこういう感じのギターいっぱいあったと思うし、「キリストの受難」を描いたにも関わらず、なんだか80年代メタル満載、みたいなビジュアルになってしまった。
そして、それはまったくもって正解だ。

 

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実はこのギター”White Grace”には、ひとつ大きな欠陥があった。
それは、ネックポケットが比較的に緩く、ネックずれというか、センターずれが起きやすいのである。

これは、普通に突っ立って演奏しているぶんには、多分それほど問題にはならない。
だが、僕は結構、飛び跳ねたり、走り回ったりしてライブをやる方だ。
その結果、勢いよくジャンプして着地したりなんかすると、その拍子にネックずれが起きて、チューニングが壊滅的に狂ってしまう。

これは4月の教会イベントの際に試しに使ってみたところ、(メタリカ映画の取材が来た時の話)、判明した問題で、その後、紙製のシムをネックポケットに挟んで対処していたんだけど、やはり完璧とはいかず、ライブにおいて時折センターずれによるチューニングの崩壊が起きていた。

 

ネックポケットが少々緩い、というのも、必ずしも悪いとは言い切れない。
なぜなら、タイトなネックポケットよりも、ある程度緩い方が、振動のせいだか理由はわからないが、鳴りがよくなるという事象もあるらしい。
僕としてはBacchusさんを信頼し、サウンド面の理由があって、敢えてネックポケットが緩く作ってあるのだと信じたいところだ。(Momoseの高いギターでも、ネックポケットが緩い個体を見かけた事がある)

しかし、ジャンプの仕方を気をつけてはいたものの、6月の新宿のライブでは、着地した際にステージ前の柵にヘッドをぶつけてネックずれが起きたし、7月のアメリカツアーの間にも、走り回ったりした結果、演奏中に2度ほどセンターずれによるチューニングの狂いに見舞われた。やはり、これは由々しき問題である。

 

結局、ツアーから戻った後、プラスチックの板を買ってきて、プラスチック製のシムを作り、ネックポケットに入れた。これによって、おそらく問題は99パーセント解決したものと思われる。その後の名古屋のライブでは気兼ねなくジャンプを繰り返したがネックのずれは起きなかったからだ。

シムを入れた事によるサウンドへの影響は、おそらく最小限で済んでいるように思われる。仮に多少鳴りにブレーキがかかったとしても、チューニングの問題を考えれば、それは大した問題ではない。

 

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ピックアップには、MojotoneのPW Hornetというモデルが搭載されている。

これは、2010年代の後半から、Deviser/BacchusさんはMojotoneとの提携を開始し、同社のピックアップを自社モデルにちょくちょく使っていたので、その流れである。Mojotoneのピックアップは性能的には非常に良いものと思われ、個人的には良いところに目を付けたなと思っていた。

 

僕が所有しているライブ用のもうひとつのメインギターであるSTR LJ-2にも、MojotoneのLevel Headというピックアップが付いている。これはそこそこパワーがあるハムバッカーで、かなりジューシーな倍音を拾い、また不思議なコンプレッション感があって、各弦の出音が妙に整うという特徴がある。(平均的に音が整うので、レベルヘッドという名前が付いている) だがキャラクターは豪快で分厚いアメリカンなキャラなので、結構気に入っている。そして、サウンドそのものはモダンでクリア、ハイファイなものだ。

 

それに対し、このWhite Grace (Grace-AT/BW)に付いているPW Hornetは、それほどパワーの無いハムバッカーだ。比較してみた感じでは、Level Headよりも出力は低い。
スペックを見ると、Level Headのリアの直流抵抗は13.12kなのに対し、PW Hornetのリアの直流抵抗は11.36kなので、数値を見る限りでは確かにPW Hornetの方がおそらくパワーは弱いように思える。

だが、サウンドそのものは、やはりモダンで、音の分離感も良くそこそこにハイファイであり、(そこそこ、であって、ハイファイ過ぎない感じ)、様々なスタイルに対応出来る汎用性の高さこそが利点だと言える。比較的に癖のない素直な出音のピックアップであるが、それでいて、どこか一本芯の通ったようなサウンドを持っているように思う。

 

楽器の固有の鳴りのせいかもしれないが、フロントピックアップの音が若干シャープ過ぎるというか、ミッドハイ辺りに気になるピークがある、と思ったが、ライブの現場でバンドで鳴らしてみると、やはり良い感じに太く抜ける音になったので、おそらくこれで正解の音なのだろうと考えている。

どちらにしても、ライブの現場において、結果は上場だった。

 

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Shinryu師範が加入して、現在のラインナップになってから、特に過去2年間において、ライブの場においてもっとも頻繁に使用したメインギターは、STR LJ-2(フロイドローズの付いた赤いレスポール)だった。

たかだかレスポールにフロイドローズを付けただけ、と思われるかもしれないが、STRのブランド名は伊達ではなく(廉価版のSierra Seriesなので、たぶん制作はBacchus Craft Series, Custom Seriesと同じところではないかと思う)、日本の職人によって高い精度で作られたそれは、僕にとってはやはりVan Halen的な「FenderとGibsonの融合」を高いレベルで実現した楽器だった。(それはほとんどGibson寄りではあるが、晩年のEVHがどんどんレスポール寄りの仕様になっていった事を鑑みれば、やはりその本質的な意味において、高い精度のレスポールにアームを付けるという、禁じ手とも言うべき不可能を可能とした意味において)

 

このSTR LJ-2も、今回ツアーに持っていったWhite Graceも、サウンドの方向性、楽器の性格としてはよく似ている。どちらもMojotone製のピックアップを載せていて、ヴィンテージ的な哲学の延長線上にありつつも、モダンでハイファイな音だ。

このLJ-2 (愛称Rabid Cat)も、僕にとってはライブ用のギターとして非常に高性能な申し分ない楽器だ。White Graceと比較して、どちらが良いか、というのは言うのが難しい。

 

だが、最近やっている曲目の関係で24フレット仕様がやはり有利な事、ならびに、ルックスとアイデンティティの面では、White Graceの方がより尖っており、自分らしさを表現出来る。そのため、しばらくはライブは全部White Graceでやっちゃおうかと、そんなふうに感じている。

これが運命のギターだとすれば、ひょっとすると、ライブはもう死ぬまでずっとこのギター一本で行っちゃうかもしれない。そんなふうに思っているくらいだ。

 

ただレコーディング制作について言えば、これはまた話が別だ。上記したように、ライブにおいては、演奏性、ルックス、様々な曲をこなせる総合的なサウンドという観点で楽器を選ぶ事になるが、レコーディングにおいては適材適所で、それぞれの楽曲に最も適したキャラクターの楽器を選んでいく方がいい。その意味では、ライブ用として運命のギターであったとしても、レコーディングにおいてこのWhite Graceをどれだけ使うかは未知数だ。だが、きっとモダンでハイパーでテクニカルな曲を録る時には、この楽器の出番があるのではないかと思っている。

 

どちらにしても、「丁寧に作られたセットネックのギターこそが至高のもの」と考えている僕が、ボルトオンのギターをこれほど気に入り、ライブ用のメインギターとして位置づけたという事実に、自分自身驚いている。(誰も気にしない事柄だとは思うが。)

レコーディングに際しては、やはり曲の方向性などを考えると、僕は日本製のレスポールにこれからも頼るだろうと思う。そちらの方が、イメージ通りの純度の高い音が出せるかもしれない。

だが、本当に良いものは、やはり良い。セットネックであれボルトオンであれ、本当に良いものには共通した良さがある。

ひとつ前の記事でも書いたように、結局、セットネックのギターもボルトオンのギターもどちらも必要なものであり、どちらが優れている、という事は無いのかもしれない。

 

 

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