久々オーバードライブレビュー前提

 

色々の事を進めるのにあたり、キーを叩いて文章を書くという作業が頭の体操になるので、こうして書いている。まずはここからだ。

 

いつもの前置きから書くのであれば、その昔、まだソーシャルメディアというものが世界的に普及する前、ロックバンドはウェブサイトというものを持つのが普通だった。それは「ウェブサイト」と表記するよりは、「ホームページ」と表記する方がしっくりくるようなものであった。その頃、そういった「ホームページ」には「日記」の機能を付けることが可能であった。僕はそこに、好きな事を勝手に書きなぐっていたものである。

バンドのウェブサイトを日本語と英語に分け、wordpressの形式に変更した後も、僕はやはり時々、好き勝手な話題を書き綴りたくなって、別に日本語のページなんて誰も見てないからいいや、と思って、時折勝手にブログ記事をしたためていた次第である。

その中には音楽に関するものもあったが、それとは関係ないもの、たとえばホットソースに関する記事などもあった。(また書きたいんですけどね、ホットソースのレビュー。何度かアメリカ行った際にいくつか買い込んで試したので)

 

楽器、機材に関する内容のものであれば、それはギタープレイヤーとして、ミュージシャンとして、まだ音楽に関連がある話題であるから、マシなような気がしている。

そのような次第で、ここにまた機材についてのブログ記事、レビュー記事を書きしたためたいと思う。

それは、エフェクターについての記事。そして、オーバードライブについての記事だ。

 

ずばり本日は、”Keeley Red Dirt”についてのレビュー、所感雑感を書いてみたいと思っている。

さらにここで前置きを書いておこう。前置きというか、前提。ここまでのあらすじ、といったものである。

 

僕は、オーバードライブのペダルを使い、軽く歪んだアンプをプッシュするといったやり方で、自分のギターサウンドを作っている。
現代のヘヴィメタル系のギタリストであれば、モダンなタイプのハイゲインアンプを使う人が多数派だと思われるが、僕はどちらかといえば古典的な伝統的なスタイルのヘヴィメタルを演っているため、ハイゲインアンプを使うよりは、クラシカルなタイプのほどほどのゲインを持ったアンプ–たとえばMarshall JCM800のような–を使う方が好みである。
ただ、そのままでは十分なゲインが得られないので、オーバードライブをブースターとして使う事で、必要なゲイン、サステイン、キャラクターを得ているというわけだ。

 

一般的にギターサウンドの歪みは真空管アンプを歪ませて得るのが一番ナチュラルで良いサウンドが得られるが、ギターのシグナル(信号)を一番最初に増幅する場所に置かれるオーバードライブ(あるいはプリアンプ的なもの)はギターサウンドの方向性やキャラクターを決める上で影響が大きく、ある意味ではアンプで音を作るよりも効果的にギターサウンドのキャラクターを決定することが出来る。

一般的にメタル系のギタリストは、ハイゲインアンプの音をタイトにする(tighten up)ためのシェイプアップツールとしてオーバードライブのペダルを使うが、僕の場合はもう一歩踏み込んで、オーバードライブにより積極的な味付けの効果や、それぞれの楽曲に合ったサウンドの切り替えの機能性、そして自分だけの個性を主張するためのユニークさといったものを求めている。

だからオーバードライブに対する好み、その選別の基準はある意味では一般的なギタリストよりも厳しいというか、多くを求めているところがある。よって、定番と言われている機種も含めて、満足出来るオーバードライブにはなかなか出会えないというのが現実だ。

 

参考までに僕のギタリストとしてのオーバードライブ遍歴を記してみよう。
僕は2008年から2015年頃にかけて、Cranetortoise/Albit社の妙に大きな「真空管ブースター」をアンプをプッシュするための道具として使ってきた。それは一般的なオーバードライブのエフェクターとは随分違ったもので、どちらかといえばフルレンジでナチュラルな真空管のゲインを得るものだった。
それはそれで、非常に個性的なサウンドを持った道具であり、一般的なギタリストにとっては使いにくいサウンドかもしれないが、僕は非常に気に入っていた。

 

だが、自分たちのバンドのサウンドが、次第にメタル色が強くなっていくと、このピュアでナチュラルな真空管ブースターのサウンドが合わなくなってきた。メタル色が強く、というのは、モダンな意味でのメタルではなく、より古典的な意味でのメタル性の事である。

そしてある時、見た目が可愛かったので4980円くらいで買い込んだToneriderとか言うオーバードライブが手元にあり、とある大事なライブの際に、Cranetortoiseの真空管ブースターがしっくり来ず、試しにこのToneriderのオーバードライブを使ったら、しっくり来てしまった。

このTonerider AO-1とか言うオーバードライブであるが、要するによくあるタイプのTS系のオーバードライブであった。もちろん僕だってチューブスクリーマーを試した事はあったが、自分の用途に使えると思った事はなかった。だがもうちょっとレンジを広くとって、トゥルーバイパスにしたタイプのモダンなTS系オーバードライブは、なんだかしっくり来たのだ。これは、このToneriderのオーバードライブが、たまたま低音の厚みが結構あるタイプであったので、僕の用途には合致したのだ。

 

と、これをきっかけに、僕はフルレンジでブーストするのではなく、ミッドレンジを効果的にブーストするTS系のオーバードライブの方が、今後の自分のサウンドに合っているのではないか、と考えるようになる。つまり、一般的なギタリストがみんな使っている「TS系」というものを、やっと僕も使うようになったのだ。

だが、この安物のToneriderは、結構良いものではあったが、個性や方向性の面で、もう一歩詰める事が出来ず、決定打にはならなかった。

(僕はこのTonerider AO1は、オペアンプを高性能なものに詰め替えて、未だに所有している。過去にもブログに記述した事があるはずだ。安物ということもあり、もともと、わりと「とろい」ところのあるペダルだったが、オペアンプを高性能なものに載せ替えた事により、TS系のオーバードライブとしては、かなり優秀なものになっている。とはいえ実戦では全然使ってないけどね。)

 

で、2016年の春の頃か。自分のバンドのカタログの中では正統派メタル色が色濃い作品である”Jesus Wind”のレコーディングに取りかかっている時に、ちょうどいいタイミングで、僕はShoalsというオーバードライブに出会い、何かぴんと来るものがあって手に入れた。アメリカの個人ビルダーが、2014/2015年頃に小規模に作っていたものだ。振り返ると、よく手に入れたものである。

その時、ちょうどギタートラックの録音を始めようとしていた”Jesus Wind”の楽曲に、そのShoalsのサウンドはばっちりと合い、これだ、という感触があった。かなりいろんな音が出て、使い勝手も素晴らしかった。

で、それ以来、2016年から現在に至るまで、僕はこの”Shoals”というオーバードライブをメインで使い続けている。

もちろん、その後、自分なりに様々なオーバードライブを試して来たが、少なくともライブ用のメインとして、このShoalsを蹴落とすようなペダルには未だに出会えていない。そして、Shoalsのサウンドには自分はかなり満足している。欠点が無いわけではないが、この8年間、使い続けて良い結果が出ているのだから、自分には合っていると言わざるを得ない。(個人ビルダーものの稀少なペダルであるので、万が一を考えて二台所有しているくらいだ)

 

そんな訳で、そのように自分にとってしっくり来る「運命のオーバードライブ」に、幸運にも出会えて良かったね、とハッピーエンドにしてもいいのだが、ここから試行錯誤を始めてしまうのがギタリストというものだ。

つまり、Shoalsのサウンドに対して–これも結構個性的なペダルであるから–これで本当にいいんかな、と思って、世間にある色々なペダルを試し始めるのである。

むしろ、僕が本当にオーバードライヴを探求し、様々なチェックし始めるのは、ここからだったと言っていい。

 

もちろん、一介の無名のバンドマンが個人でチェックしているだけだから、チェックすると言っても絶対数は少ない。マーケットに数限りなく存在するオーバードライブを、すべて試すわけにはいかない。

それでも、機会を見つけて自分なりには色々試してきたのである。楽器屋さんで積極的に試奏したり、ぴんと来るものがあれば購入したりした。

BluesBreaker系、klon系、トランスペアレント系なども試したが、やはり僕の場合は、一般的なTS系をベースにしたものがしっくり来るというのが、今のところの結論だ。

(もっとも、”Shoals”に関しては、TS系をベースにはしているようだが、一般的なTS系ともまた、性格が違っている。これが何をベースにしているのか、元ネタとなったペダルはあるのか、未だにわからない。Shoalsと同じようなサウンドを持ったペダルに、僕は未だに出会っていないのだ。このへんも、出来れば詳しい人に聞いてみたいところである。)

 

自分のバンドの作品について言えば、2016年に録音した”Jesus Wind”、2017年に録音した”Overture”、そして2019年に録音した”Nabeshima”と、どれもメインで使っているのは”Shoals”だ。(全部ではないけど、大部分は)

2020年に録音した”bloody acoustics EP”と、2021/2022年に録音した”To Rome EP”については、敢えてShoals以外のものを使っている。

そして昨年2023年に録音して、これから発表する”Coming Back Alive”であるが、「一般的な1980年代風ハードロックサウンド」を志向した結果、4種類のオーバードライブをほぼ平等に使い分けている。別に隠す事もないし、Coming Back Aliveの音作りについてはまた機会を見て別途記事を書き記しておきたいが、使ったのは、”Shoals”、”T-Rex DIVA”, “Maxon OD808X”(赤)、”Keeley/Mammoth TS9 BakedMod”の4種類である。これらは、それぞれに特徴があり、僕も使えるものとして評価し気に入っているからこそ所有しているペダルだ。結局は適材適所であるので、今後も曲に合えば使うし、合わなければ使わない。

 

 

と、ここまで書いてきて、自分の音作りの変遷を見た時に、これには日本のバンドマン、日本のギタリスト特有の状況が、音作りの変遷、その経緯に関わっていることに気付く。

それはつまり、自分のアンプを使わないという日本のバンドマン特有の状況だ。
もちろん、メジャーなバンドの著名なギタリストであれば、当然に自分のアンプを使うに決まっているが、一般的な日本のインディのバンドマンは、ライブの際に自分のアンプを使う事は少ない。

だからこそ、ほとんどのライブハウスにバックラインとして置いてある「Roland JC-120」(いわゆるジャズコ)が、日本のバンドのサウンドに良くも悪くも大きく影響してきたのだし、多くのギタリストにとって、ライブハウスやリハーサルスタジオで見かける一般的なMarshallのアンプとどのように付き合うかが、音作りの大きなテーマというか、ひとつの前提となる。

 

ここまで書いてきた僕の音作り、オーバードライブの変遷の履歴であるが、これもやはり、「ライブハウスにあるMarshallアンプを使う」という前提の下にあれこれやってきた結果だ。

日本のバンドマンは、一般的に自分のアンプを所有する事は少ない。無いわけではないが、諸外国と比べて、自分のアンプを所有し、ライブの場にそれを持ち込む例は絶対的に少ない。これは日本ではライブハウスの機材や運営管理がしっかりしていて、バックラインとしてちゃんとしたアンプが使用可能であるという事も大きい。

僕も自分のアンプを所有していなかった訳ではないが、やはりその数は多くはない。

そして恥ずかしながら、僕がライブにおいて(日本国内の普段のライブにおいて)、自分のアンプをなるべく毎回持ち込むようになったのは、やっとこの2年くらいの事だ。

 

振り返ってみれば、もっと早く自分のアンプを持ち込むようにしていれば良かったと思う。やはり、気に入った自分の音をライブで使えるという事は、全然違うからだ。音作りも圧倒的に楽になるし、何よりもお客さんに良いものを届けられる。
だが、ライブでも使えるような気に入ったアンプに出会うまでには、やはりそれだけの時間や、試行錯誤が必要だったとも言えるのだ。

これが、海外、たとえばアメリカの環境の中であれば、きっと違っただろう。

自分のアンプを所有して、ライブでも自分のアンプを使うのが当たり前という環境であれば、まずは自分専用の気に入ったアンプを手に入れ、それが前提となって、それに合うオーバードライブを使う、という順序になる。

そのような環境、そのような使い方であれば、オーバードライブ、ひいてはギターサウンドという事についても、もっと早く答えに辿り着いていただろうと思う。
(昨今のデジタル環境下におけるモデリングアンプが当然となった時代の中では、また少し事情が違うかもしれないが)

 

かといって、その回り道が無駄だったとは思わない。
だからこそ、出す事の出来たサウンドも、やはりそこにはあるからだ。

 

と、ここまで書いたところで、本題のレビュー記事に辿り着かなかったので、それは次の記事として分けて著述したいと思う。笑。

 

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