さて、こんな折であるが、生活の記録として、またギタートークを書き記しておきたい。
ピックアップの話である。
恥ずかしながら勘違いしていた。僕はこれまでのささやかなインディバンドでのギター人生の中で、ピックアップのハウリングという現象に2度出会った。そして、その2度とも、ピックアップの交換を余儀なくされた。
今月のことであるが、僕はバンドのリハーサルにおいて、このピックアップのハウリングという事態に悩まされた。人生で3度目の事である。
それは、「カバード」のピックアップだった。
恥ずかしながら、僕はなんとなくの先入観で、ピックアップ(ハムバッカー)はカバーが付いているやつの方がハウリングしにくいのだと思い込んでいた。しかし現実は逆だった。調べてみると、金属製のカバーとピックアップの間で色々と干渉して「マイクロフォニック」が発生しやすくなるのだそうだ。
これは、もともと僕は一応メタル系のギタープレイヤーであるので、今まで弾いてきた楽器にも、カバーの付いていないピックアップが多かったこと、また、今までにハウリングの問題が生じた2度に関しても、カバーの付いていないハムバッカー(いずれもパワーのないヴィンテージ系を狙ったもの)であったことから、そのような先入観を持つに至ったのだと思う。
さて、問題が起きたギターは、他でもない「猫ポール」である。
あらためて書くと、2013年の秋に入手し、それ以来ライブに録音に愛用してきた楽器である。
あらためて思い出話をすると、あの時、僕らは”The Extreme Tour Japan”の第一回目を行い、アメリカやカナダのバンドと一緒に日本国内をツアーした。その時に、東北の友人にギターを寄付したのだが、カナダ人のギタリストから、「Make space for your new les paul?」(レスポールを手に入れるために場所を空けているのか)と言われて、僕はその時レスポールに何の興味もなかったので、何言ってるんだこいつと思ったものの、後になってその言葉が妙に引っかかり、それが暗示のようになって、「よし、一度レスポールというテーマに本気で向き合ってみよう」と思い、リサーチと試奏を重ねた結果、手に入れたギターである。僕は良いレスポールを所有したことも、ヴィンテージの知識もなかったが、過去にSascha Peath氏のところでレコーディングさせてもらった際に、なんか古そうなゴールドトップ+P90のレスポールをなんか古そうなプレキシに通して弾くという経験をさせてもらっていた。その経験だけを頼りに「レスポールって何なのか」ってことを考えていった。そして選ばれたのがこの「猫ポール」だった。
それは”Bacchus”という国内のメーカー/ブランドのギターであった。日本製のモデルであり、正確なモデル名は、Bacchus Classic Series BLP-STD FMといったようなものであったと思う。(Hシリアルのものだ)。値段も投げ売り状態であったが、僕が「これだ」と思ったのは、GibsonでもTokaiでもなく、Bacchusという「そういえば聞いたことある」くらいのブランドであって、それは僕自身驚きだったのだが、この「猫ポール」は僕がBacchus/Deviserブランドのファンになるきっかけとなった楽器であり、またこの楽器との出会いは、基本的にそれまでハードロック、メタル系のギターを弾いてきた僕にとって、エレクトリックギターに関する価値観を大きく変えるきっかけとなる出来事であった。
前置きとなるあらためての思い出話が長かった。
この「猫ポール」は、ライブでも録音でも多用した。
自分に合っている楽器だったことは間違いない。
録音制作で言えば、”Repent”、”Jee-You”、”Dying Prophet”、”The Wave”、”God Anthem”、”Born To Ride”、”Unknown Road”、”Victory”、”17years”、などの楽曲で使っている。うちのバンドのアルバムで言えば、”Revive The World”、”Jesus Wind”でメイン使用され、”Nabeshima”では4曲で使用した。
ミュージックビデオで言うと、やはり”God Anthem”のビデオで使っているのが印象的だと思う。(あのビデオは、レーベルの関係でYouTubeで現在、非公開unlistedの設定になっているが)
だが、ここまでやってきて、少なくともレコーディング制作に使う楽器としては、基本的にもう役目は終えたかな、という感が、僕の音楽人生の中ではあった。
2011年製の楽器であるので、作られてからもう14年ほど経過している事になる。カラー、フィニッシュはカタログ上では「チャコールグレー」という独特の色で、メイプルの杢目も含めてそれがちょうどキジトラの猫のような見た目であったので「猫ポール」と命名したのである。しかし経年変化によって色がブラウン系に変化してきたので、次第に普通のレスポールに近い印象になってきた。照明の具合によっては、あるいは人によってはグリーンに見えることもあるようだ。
自分の音楽人生を変えてくれた素晴らしい楽器であり、今でも愛用し、折に触れて弾いていることに違いはないのだが、もともとこのギターには、レスポール系にしては珍しい比較的パワーのあるピックアップが搭載されていた。バッカスさんのオリジナルのピックアップだが、カタログ上では、リアはBHH(R)、フロントはBHV-A5となっている。(残念ながら抵抗値などの数字は測ったことがない)
なんで、クラシックなスタイルのレスポールなのに、パワータイプのピックアップが載っているのだろう、とずっと疑問ではあったのだが、しかし僕はメタル系の音楽をやっているのであるから、実のところそのピックアップ構成は天の恵みであって、それによって、自分のバンドにおいては理想的にヘヴィな音を作り出すことが出来たのは事実だった。
しかし、わりとアクの強い、比較的に色の付いたピックアップであることも事実だったので、ここまで使ってきて基本的には役目を終えた楽器であるから、これを機会に、レスポール本来の素直な音が出せるよう、ヴィンテージタイプのピックアップに替えてみようと思い立ったのであった。つまり、僕も歳を取ったし、この相棒の猫ポールにも、メタル用ではなく、ヴィンテージ系の仕様として、「老境仕様」としてそっち方面の使い方を追求してみようと思ったのだ。
それが昨年の事である。
選んだのは、またも日本製GOTOHさんのピックアップである。
これは、まずなにを差し置いても値段が安いこと。もともとGOTOHさんがOEM制作したと言われているピックアップはこれまでにも何度も使ってきているので馴染みがあること。また、過去にDuke Standardにも”Classic Alpha” (HB-Classic α)を搭載して良い結果が出ているので、また同様に「Classic Alpha」を搭載することにしたのだ。
そして、そのまま部屋で普段弾きしていて、やはりヴィンテージライクな素直で反応の良い素晴らしい音になったので、大満足していた。フロントはまだオリジナルのままなので、フロントの方が若干パワー過剰で色付け的にも世界観が違うので、本当はフロントも交換したいところなのだが、かといって悪くはないので、フロントはBHV-A5のままで保留である。ちなみにDuke Standardの時に発生した「逆位相フェイズアウト」は起きなかった。(配線のやり方によるのかな。僕はPeter Greenの大ファンなのでむしろフェイズアウトして欲しかったくらいだが、かといって現状でセンターの音も良い感じなので、問題はない。)
で、元々付いていたBacchusオリジナルのBHH(R)は、たまたま色々な事が重なったので、友人にあげてしまった。(とあるお方が所有しているBurnyのSGのリアピックアップが壊れていたということで、差し上げたのでした。)
なので、元のピックアップに戻すという選択肢は、現状でなくなってしまったのである。
で、今月 earlier this month、僕はバンドのリハーサルに、久しぶりにこの「猫ポール」を持っていった。
それは、新ドラマーのKenshin君と新たなアンサンブルを構築するにあたって、色々の理由から、一度基本に立ち返ってみようと思ったのである。
その結果、リアピックアップのハウリングに見舞われた。
うわっ、と思った。予想していなかった。
つまり、過去にDuke StandardにHB-Classic αを搭載してハウリングの問題は起きなかったこと、一応ポッティング(ワックス漬け)はされている筈だということ、そして、これは勘違いだったのだが、カバードタイプならハウリングは起きにくいのではないかという先入観があったからである。(ちなみにDuke Standardに載せているのはカバーのないタイプだ。)
どちらにしても、部屋でパソコン/DAWに通したり、小さな音で弾いている時にはあまり気づかないピックアップのハウリングであるが、現場に持ち込んで爆音で鳴らして初めて判明するということは、これまでにも何度か経験したことだ。
音は良かったのである。猫ポール + HB-Classic Alphaのサウンドは、交換前に比べればパワーやアクの強さは劣るが、しかしサウンドはやはり、堂々たるレスポールの音で、理想的なものだった。けど、歪ませてボリュームを上げると「ピーッ」とハウリングするので、困っちゃったのであった。
先日、Patreonならびにソーシャルメディアにこの時のリハーサルの音をちょっとアップしちゃったので、音質の悪いスマホ録音ながらに、猫ポール+Gotohの音が聴ける。演奏中はハウリングの音は気にならないし、この映像の中でぴーぴー言ってるのはむしろヴォーカルマイクのハウリングなので、そこは参考にはならないが、現在の猫ポールの音ってことで掲載しておく。
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うちのバンドの最新作であるアルバム”Coming Back Alive”においては、80年代ハードロックへのオマージュというテーマもあって、「スーパーストラト」系の楽器がメインだったし、昨年一年間も、ボルトオンのスーパーストラトをメインにしていて、なおかつ部屋でも手荒に扱えるという理由で、普段弾きはほとんどストラト系。
そんなわけで久しぶりにレスポールを手にしてみて、「やっぱ弾きにくいな」とプレイヤビリティの落差に慄いたものの、やはり音は素晴らしいのであった。
しかし、ハウリングという思わぬ問題に見舞われた。
うーん、これは、今回は「猫ポール」は使えないな。
どうしようかな、と思った。
またピックアップを交換する必要があるだろうか。しかし、かといって、どれに交換すればいいのか。
現状のHB-Classic αで、音としては理想的なのである。問題はハウリングだ。
そして、ちゃんと調べてみると、ハムバッカーは、カバーの付いたタイプの方がむしろハウリングしやすいという事を知った。すみません不勉強でした。
だから、これがカバーの付いていないタイプであれば、おそらくハウリングの問題は起きなかった。ピックアップ自体にはロウ付けがされているはずだから。しかし、ネタバレをすれば、ピックアップ自体はおそらく蝋漬けされていたものの、カバーの内部にはロウ付けはされていなかったのである。
つまり「カバード」、カバー付きのピックアップには、カバードならではの良さがある。ロウ付けをするっていうことは、わずかではあるが、サウンドが変わってしまうことを意味する。なので、メーカー側としては、ヴィンテージ寄りのモデルであるこのClassic Alphaに関して、カバードならではのサウンドや使われ方という事を鑑みて、カバーの内部を蝋で充すことはしていないのだと思われる。(たぶん)
(もともと付いていたピックアップもカバードだったが、ハイゲインタイプゆえに、明らかにカバー内部のロウ付けがされていたのだろうと思われる。)
「よし、じゃあ自分でロウ着けに挑戦してみようかな」
(自己責任でお願いします。リペアショップにお願いするのが本筋です。)
そう思って、コンビニで蝋燭を買ってきた。もっとも蝋燭なんていうレトロなアイテムは、いまどきコンビニでも売っているとは限らないのだが。近所のコンビニには運良く置いてあった。
YouTubeで見たものを参考に、カバーの中に蝋燭の破片を入れる方法を試してみたのだが、改善しなかった。
うーん、やっぱダメかな。
はんだごても、パワーのない安価なものしか持ってないから、カバーを外すこと自体も苦戦したし、無駄にはんだごて当てたり、手荒に扱ったり、断線したり、ピックアップ自体を壊しちゃったりしないかと心配だったけど、結論から言えば壊れないでいてくれた。
そもそも、狭いアパート暮らしであり、いきなりピックアップの蝋付けをやろうとしても、設備的に限界がある。
そして僕は面倒くさがりであるので、ピックアップの配線も外さずにそのまんま作業しちゃった。
で、あきらめきれなかったので、キッチンでマグカップとお皿を使ってうまいこと、ロウを湯煎で溶かし、カバーの上からピックアップにどばっとかけて、お皿の中でロウに浸してやった。意外と冷めるまでに時間がかかる。また、ロウは完全に固まるまでは粘土のようにやわらかいので、だから蝋細工とか蝋人形とかあるんだなーと無駄なことを思ったのであった。
で、結果、上記のように思い切って全部どばっと浸しちゃった結果、どうやらハウリングは改善した。
自宅での検証だから、完全には結論が出ないところもあるが、モニタースピーカーの音をあげて、思いっきり歪ませて検証しても、ほぼハウリングが起きないようになった。そして、YouTubeの動画にあった、ピックアップをコツコツとピックで突っついてみて、「カンカン、キンキン」という空っぽの音がする(ハウリングしやすい)というのと、ロウ漬け後の「コツコツ、トントン」という詰まった音(ハウリングしにくい)の違いも実感できた。
逆に言えば、この「カンカン、キンキン」という音が、カバードタイプの反応の良さであり、サウンドの特徴ということでもあるので、蝋付をすることで、この部分のサウンドが引き換えになってしまうのは仕方のないところだろう。
あとは、スタジオで爆音で演奏してみれば結論が出る。
でも、たぶん実用上問題のないところまではいったんじゃないかな。
気になるサウンドも、確かにハイエンドの反応や透明感は多少失われたかもしれないが、ハードロックを演る上ではむしろ音のまとまりが良くなり扱いやすい音になったとも言える。
僕としてはむしろ理想的である。
よっしゃ、これで「猫ポール」をまた現場で使えるようになったで。
しかも、これまでにも増して、本来のレスポールらしい音や。
一時はあるいは、カバーの付いてないタイプのノンカバードのピックアップに替えなアカンかと思ったけど、やっぱ見た目的にも、サウンドの面でも、この「猫ポール」にはカバードがしっくりくるしな。
これが「あるべき姿」やと思えてきたで。
(フロントピックアップはひとまず保留で、後からゆっくり考えていく)
さて、基本に立ち戻って、このど真ん中のレスポールで、青春のロックサウンドを鳴らすとするかねー!!
若いドラマーKenshin君と一緒にやって、やはりサウンドが若返っていることを実感するのよね。
だから、まずはその部分を活かそうと思うのだ。
ひたむきでまっすぐな若返ったサウンドをお届けするのだ。
あらためて書いておきますが、ピックアップや楽器を壊しちゃう危険もあるし、火傷や怪我の危険もあるし、ロウ付けにしても、改造にしても、おすすめはしません。本来はちゃんとしたリペアマン、リペアショップに依頼するべきものと思います。自己責任でお願いいたします。この文章は、あくまで僕の場合はこのようなことを行ったという記録に過ぎません。
以上です。