バンドのウェブサイトを今年、リニューアルした時、僕はそれをよくあるバンドのウェブサイトとは違ったものにしたいと考えていた。
僕はそれを、一般的なブログみたいな形式にして、自分たちの音楽のことじゃなくて、他の色々な事についても書きたいと思っていた。たとえば、自分のお気に入りの音楽の事とか。
日本語サイトの方では、既ににいっぱい色んな事を書いているので、それはバンドのサイトというよりは個人の日記ページみたいになってしまっている。けれども僕の英語のスキルはそれほどあるわけじゃないから、英語ページにはずっと少ない頻度でしか書くことが出来ない。
「お気に入りの音楽」として最初に書く記事として、今日はStryper (ストライパー)について書こうと思っている。
当然ながらトピックとしては完璧だ。なぜって僕たちはクリスチャンメタルのバンドだから。Stryperこそが、このクリスチャンメタルというものを最初に始めたバンドなのだから。
そしてタイミングも完璧なはずだった。
なぜなら彼らの来日コンサートが行われるタイミングであったから。
コンサートのすぐ後に、この記事を書こうと思っていた。
けれども、残念ながらそうはならなかった。
なぜなら、知ってのとおり、彼らの来日コンサートはキャンセルされたからだ。
リードギタリストのOz Foxの健康状態の悪化によって、コンサートは延期され、2019年の2月にリスケジュールされた。
みんなも知っていると思うが、オズ・フォックスはインターネット上(GoFundMe)で、医療費についての援助を募っている。
https://www.gofundme.com/help-oz-fox-pay-his-medical-bills
正直なところ、日本人としては、アメリカの人たちがこのように医療費をインターネットで募らなければいけないという状況には違和感を感じる。
これは医療制度の問題であり、おそらくは政治の問題なのだけれど、彼のように著名なミュージシャンが自分自身の医療費について他人から募らなければいけないという状況は変だと思う。ミュージシャンはきちんとした医療保険に加入できないのだろうか。それにしても、この点については日本の方が多少マシであると言わざるを得ない。
いずれにしても、オズ・フォックスを支援してあげて欲しい。僕たちも小額ながら寄付をしました。
STRYPERは、僕たちがもっとも頻繁に比較されるバンドのひとつです。
「クリスチャンメタルを演っているのかい? Stryperが好きなの?」
アメリカをツアーしていた時に、そうやって聞かれることが度々あった。
それは僕たちが1980年代風のスタイルで演奏しているクリスチャンメタルバンドだからでしょう。
そして僕は歌詞のところどころにStryperのリファレンス(引っかけ)を含めていることも認める。それは彼らのレガシーへの敬意であり、クリスチャンメタルの伝説に対するオマージュだ。なにしろ、彼らこそがこのジャンルの創始者なんだから。
僕はここで「クリスチャンロック」っていうものの創始者が誰か、ということについて議論することはしない。Petraみたいなバンドだって居たし、ボブ・ディランだってクリスチャンロックを演っていた。
けれど僕に言わせれば、この長く隠されてきたロックの歴史の秘密であり、2018年にようやくロックの殿堂入りを果たしたSister Rosetta Tharpeこそが、クリスチャンロックを始めた人だと、そう思っている。
これは、ロックは神様からの贈り物であり、悪魔のものではないという僕の信念を裏付けるものでもある。なぜってロックンロールを発明した人が、クリスチャンロッカーだったのだから。(シスター・ロゼッタ・サープは、多くのスキャンダラスな要素にも関わらず、完全にクリスチャンロッカーだったと思う。)
けれどもクリスチャンメタルってことで言えば、その創始者はやはりStryperだ。
彼らがいなければ、Tourniquetも、Mortificationも、P.O.D.も、As I Lay Dyingも、Skilletも、August Burns Redも存在しなかった・・・って、このリストはすごく長くなりそうだ。
だから僕は彼らにとても大きな尊敬の念を持っている。
彼らがクリスチャンメタルのオリジネイターなのだ。
彼らは1980年代のクレイジーなヘヴィメタルの世界で戦い、そして大きな成功を収めた。
もちろん、彼らがいなければ、僕らのバンドImari Tonesも、今のような形では存在していなかっただろう。
その他のバンドで僕たちがよく引き合いに出されるバンドの中に、たとえばLOUDNESSがある。1980年代の日本のヘヴィメタルの偉大なバンドだ。
それは理解できない事ではない。なぜなら彼らは当時、日本のメタルバンドとして、海外で商業的な成功を収めたほとんど唯一のバンドであるからだ。
だからライブの後、人々がやってきて「ヘイ、君たちは日本のメタルバンドなのかい? Loudnessは好きかい?」みたいにして話しかけられることは頻繁にある。
僕の答えはもちろん「イエス」だ。日本でメタルファンをやっていて、Loudnessを好きじゃない、なんてことはあり得ない。Loudnessは偉大だ。
けれども、そんな時、僕は彼らに「僕はどちらかと言えばアースシェイカー派なんだけれど」とは言えない。もちろん僕はLoudnessは大好きだが、もし日本のメタルってことで言うのであれば、僕の最大のフェイバリットはEarthshakerなのだ。
もし君が日本のメタルファンであれば、当然この事は理解できるだろう。
1980年代の日本のヘヴィメタルの世界の中で、LoudnessとEarthshakerは2大巨頭みたいな存在だった。(そしてシンガーの二井原氏は最初はアースシェイカーの一員としてキャリアをスタートさせたから、このふたつのバンドの繋がりは深い。この2つのバンドの物語は、日本のヘヴィメタルの歴史の中で輝いている。)
けれどアースシェイカーは海外では成功を収めなかった。Loudnessがよりアメリカのバンドみたいなサウンドを出していたのに対して、アースシェイカーはもっと日本的なバンドだ。彼らは日本のオーディエンスに向けて演奏していた。
きっとアメリカや海外のメタルファンたちは、アースシェイカーの音楽を本当に理解することは難しいだろう。彼らはとても日本的だからだ。彼らの音楽は、世界の中では隠された宝物なのだ。
このように僕は自分のジャパニーズメタルについての思いを、いつも語りたいと思っているが、けれどもそれを海外のファンに説明するのは大変なことだ。時間もかかるし、たぶんあまり理解してもらえない。
だからこそ、ただ単に「イエス、Loudnessは大好きだよ。彼らは凄いよね!」と答えるようにしている。わかるだろう?
それと同じように、STRYPERについての質問は、僕にとって答えるのが難しいものだ。
とても複雑で、説明するのに時間がかかる。そして、理解するのにも時間がかかるだろう。
なので、この機会を使って、僕のStryperに対する思いを書こうと思う。
本当のことを言うと、僕はStryperを本当に好きになったことは無い。
もちろん、非常に尊敬している。
けれども、彼らの音楽を本当の意味で好きになったことは無いんだ。
けれども誤解してないで欲しい。
彼らの初期の作品である「The Yellow and Black Attack」や「Soldiers Under Command」は大好きだ。後者はたぶん僕のいちばんのお気に入りだ。
そして「In God We Trust」の洗練されたポップなサウンドも良いと思うし、「Against The Law」のハードなスタイルもとても高く評価している。
けれども僕にとっては、ストライパーは単に「80年代のよくあるバンドのひとつ」であり、「派手な衣装を着ていたヘアメタルバンドのひとつ」にしか過ぎなかった。
本気で好きになったバンドでは無かったんだよね。
そして、それは僕がクリスチャンになって以降も変わらない。
なぜなら、正直に言えば、本当に大事なのは音楽そのものだからだ。バンドが「クリスチャン」かそうでないか、に関わらず。
けれども、ここにひとつの大きな理由があるんだ。
それは、うちの嫁さんがStryperの大ファンだったから、僕もStryperを好きになった、ということなんだ。
僕と、嫁さんは、2008年にクリスチャンになって、翌年2009年に一緒に洗礼を受けた。
その後、Stryperを日本のメタルファンの間に広めることは、彼女の人生の使命になった。
信仰の熱い炎を持って、彼女はその使命のために走り出した。日本のメタルファンに対してStryperを宣伝し、彼らの音楽を通じて、キリスト教を伝えようとした。
うちの嫁さんはメタルファンだ。ヘヴィメタルガールだ。
たとえば僕の親しい友人は、僕について、メタルバンドをやっているけれど、実際のところリスナーとしてはそれほどメタルファンってわけじゃないことを知っているだろう。僕はヒップホップも含めて、色々な音楽を聴くし、僕のお気に入りのバンドはおおよそ大体ヘヴィメタル以外のジャンルのバンドたちだ。
けれどもうちの嫁さんはメタルしか聞かない。1980年代のものか、そうでなければスラッシュメタルか、よりヘヴィなものだ。彼女の影響で僕もスラッシュメタルやメタルコアを聴くようになった。
そんな訳でクリスチャンになった後、Stryperを応援することが彼女の使命になった。
彼らを応援し、日本のメタルファンの間で彼らの存在を広めることだ。
それはうちの嫁さんなりの「神への献身」だった。
なので僕もそれを理解して、一緒に応援するようになった。
彼女の情熱はとても大きかったので、ある時、クリスチャン新聞がそのことを記事にしてくれた。
記事の見出しには「ストライパーを日本に呼びたい」と書かれ、インタビューの中で彼女は、1989年に行われた前回の来日から20年以上が経っているが、来日を実現させたい、と語った。
そんな嫁さんの夢は、2011年のLoudparkにStryperが出演したことで部分的に実現した。
それはとても素晴らしかった。
Stryperの演奏は完璧で美しく、それは間違いなく日本のメタルファンの間でStryperの再評価が始まった瞬間だった。
その演奏の間、僕たちはホーリースピリットと喜びに満たされ、とても祝福を感じた。
まるで神様が僕たちの祈りに答えてくれたようだった。
それがあんまり素晴らしかったので、うちの嫁さんはその後、「Stryper Street Team Japan」というものを始めた。FacebookやTwitter等のインターネット上で始めたんだ。
彼女はとても堅い決意を持っていた。彼女の目標はStryperの単独来日コンサートを実現させることだった。(なぜなら2011年のラウドパークでは、あくまでフェスであり、演奏時間も短いものだったから)
1989年以来となるストライパーの単独来日コンサートを実現させることが、彼女の目標だったんだ。
彼女はそのStryper Street Team Japan (SSTJ)に多大なる努力をつぎ込んで、それは日本のメタルファンの間でポピュラーになっていった。彼女はそれを通じてたくさんの友人を得た。その中には同じようにストリートチームの活動をしている他の国の人たちもいて、彼女の英語はずいぶんと上達した。
彼女はラジオの番組にStryperの曲をかけるようにたくさんリクエストを送り、人気投票にもたくさん投票した。そして他の人たちに対しても投票するように呼びかけた。僕はStryperの記事を翻訳する手伝いを行った。日本のヘヴィメタルファンの間で、この元祖クリスチャンメタルのバンドが再評価されるのを見るのは素晴らしいことだった。
彼女の努力と祈りは、2016年に叶えられた。
そう、それは実現したんだ。
2016年4月、Stryperは1989年以来、27年ぶりとなる単独来日ツアーを行った。
もちろん僕は、これがうちの嫁さんの努力の結果、それだけと言うつもりは毛頭ない。
Stryperは、2003年の再結成以来、実に着実にキャリアを重ねてきた。良いアルバムを作り、素晴らしいコンサートをしてきた。それは、こうした再結成した往年のバンドの中では珍しいことだと思う。彼らは往年のヘアメタルバンドの中でも、今でも素晴らしい演奏をしている数少ない例のひとつと言うことが出来るだろう。
興味深いことに、他の1980年代のメタルバンドが年月とともに状態が悪くなって演奏も劣化するのと比べ、Stryperはむしろ良くなっていた。これは、彼らがドラッグやアルコールや典型的なロックンロールのライフスタイルから距離を置いていたせいなのだろうか。あるいはこれも、クリスチャンバンドであることの祝福のひとつなのだろうか。
だから、彼らが21世紀のヘヴィメタルの世界で新たに支持を得ていたことも、むしろ自然なことだった。
だが、そうは言っても、この27年ぶりの来日が実現した時、うちの嫁さんは、たくさんの友人から、「ついに実現したね」とか「来日を実現させてくれてありがとう」とか言われたことも事実である。
その頃にはうちの嫁さんは、バンド側や、バンドのマネージャー(マイケルの奥様)とも親しくなっていた。
だから僕らはバックステージに招かれた。それは素晴らしい経験だった。僕はクリスチャントゥデイジャパンで記者をやっていた友人のためにマイケル・スウィートにインタビューも行った。
この来日ツアーの間、ミートアンドグリート等を見て、日本のファンたちがSTRYPERを見ることが出来て喜んでいる様子を見て、僕たちはとても嬉しかった。たくさんの人から「ありがとう」と言われ、僕たちは努力が報われたと感じていた。うちの嫁さんの夢は実現した。ゴールは達成されたのだ。
けれども、その2016年の来日ツアーの少し後になって、僕たち(僕と嫁さん)は、このStryper Street Team Japanの活動を辞めることを決意した。
そこには色々な理由があり、それを説明するのは難しい。
けれども、そのうちのいくつかは、以下のようなものだった。
1: Stryperの単独来日コンサートという目標は達成された
2: 彼らの現在の音楽からは、いつしか神への賛美よりも、マイケル個人のエゴの方が強く感じられるようになってしまった
3: アメリカの保守主義と、キリスト教の信仰とは、似て非なるものであると感じた
4: うちの嫁さんは、Tim Gainesの大ファンだった
その中でも最も大きな理由は実は4番目だった。
うちの嫁さんは、Stryperの中でも、ベーシストのティム・ゲインズの大ファンだった。
Tim Gainesは、2017年にバンドから脱退している。
けれども、2016年の時点ですでに、僕たちは何かがおかしいことを感じ取っていた。
だから、ティムの脱退をめぐるゴタゴタやスキャンダルの中でも、僕たちはどちらかといえばTim側にシンパシーを感じていた。
もちろん、Tim Gainesはどう考えても完璧な人間とは言い難いが、けれども、キリスト教の本質は、完璧であることではない。
どちらにしても、うちの嫁さんにとっては、TimのいないStryperを応援する理由は残っていなかった。
彼女のやっていたストリートチームの役目は、違う名前の下で友人に引き継がれた。
音楽ファンとして、僕たちにとっては、インディーやローカルの現在のバンドを応援する方が理にかなっており、1980年代の有名な古いバンドに対する情熱は、僕たちの中ではほとんど失われてしまった。
なので、僕たちは今回の2018年8月に行われる来日コンサートは見ないことに決めていた。
けれども皮肉なことに、彼らは「Live in Japan 1985」と銘打って、当時のセットリストを再現し、”The Yellow and Black Attack”や”Soldiers Under Command”の時期の曲を演奏するというではないか。ヘイ、それって僕たちの一番好きな時期の曲目じゃないか!
しかし、前述のとおり、Oz Foxの健康問題により、コンサートは延期された。
僕たちはとても心配し、そして複雑な気持ちになった。
僕たちはOzの順調な回復のために祈っている。
僕はSTRYPERに対する尊敬の念を失うことは決してない。
なぜなら彼らがこのクリスチャンメタルというものを始めた人たちだからだ。
彼らが居なければ、他のすべてのクリスチャンメタルのバンドも存在しなかった。(もちろん、僕たちも)
さきほど言ったように、僕のもっとも好きなStryperは、初期のものだ。”Soldiers”とか”Y&B”の頃だ。
内気な自閉症気味の人間としては、東京の大きな街、渋谷や新宿を歩くのは大変に勇気が要る。
けれども、”Soldiers Under Command”のアルバムを携帯から爆音で聴いていると、僕はそこに行くことが出来る。
それは僕の魂をハイにしてくれる。魂に勇気をくれるのだ。
彼らの音楽は、それほど素晴らしいものだった。
僕にとっては、ストライパーとは、華やかなジーザス・ロッカーたちの、若くフレッシュなエナジーに満ちた音楽だ。古いファンに向けた、怒りに満ちた、タフなルックスの本格メタルバンドというようには、あまり思えない。
ある時期から、彼らの音楽は、少なくとも僕の耳には、個人のエゴが強く聞こえるようになってしまった。それが正確にいつから、とは言えないし、それがなぜなのかも、正確には言えない。
けれども、少なくとも僕の意見では、今のストライパーは、クリスチャンバンドの理想的な形ではない、と言うことが出来る。
では、クリスチャンメタルとは何なのか。
そもそも、クリスチャンロックとは何なのだろうか。
それを言葉で説明することは出来ない。
けれど、願わくば、日本のインディーバンドの人間として、そして日本のクリスチャンメタルの人間として、僕はそれを自分の「伊万里音色」の音楽で見せることが出来たらいいなと思っている。
もちろん、ぜんぜん無名のバンドではあるんだけれど。
再度、Stryperに敬意を込めて。
うちの嫁さんはTim Gainesの大ファンだと書いたけれど、僕自身はと言えば、Robert Sweetの大ファンだ。彼は技術的にはあまり良いドラマーとは言えないかもしれない。けれど、僕は彼のスタイルがとても好きなのだ。だから、デジタルテクノロジーで編集される以前の、彼が実際にドラムを叩いていた初期のアルバムが好きなのかもしれない。
Oz Foxの回復のために祈ります。彼は素晴らしいギタリストであるだけでなく、優れたシンガーでもあります。(僕たちの次のアルバムを彼にプロデュースしてもらうべきだろうか?)
そしてMr.マイケル・スウィートに、神の祝福がありますように祈ります。
クリスチャンメタルの偉大なヴォーカルに!