Plugin Allianceに対するアンビバレンツ

写真は記事文中でちょっとだけふれた、中古のToft ATC-2。あまり本文とは関係がない。ハードウェアのアウトボードなんてそんなに持ってないけれど、たまに使うと、「ハードウェアはいいな」って思うと同時に、「プラグインの可能性と柔軟性はすごいな」って思うのも事実。どういう組み合わせで使うかは、その時次第だね。

ところでタイトルとは直接関係ないのだけれど、こちらのブログが素晴らしい。読み物として素晴らしい。
https://simplestudio.jp/

単純にヴィンテージ機材だけではなく、それに携わった人間のことを書いているみたいだ。

実践的な知識やテクニックもそうかもしれないが、文系(笑)の僕としては、物語や感情の面で語ってくれた方がわかりやすいし、面白い。(技術的な記事は、ベーシックなものが多いように思う)

 

ハイプっぽい機材レビューとか、商売っぽい感じ、数字を狙っている感じのブログやメディアは世の中にたくさんあると思うけれど、こういう視点で書いているものは日本語ではあまり見かけなかったように思う。

英語のメディアで言うと、TapeOpなんか結構好きで読んでいるけれど、あれなんかも割と商売っ気は少なめで、人物とか物語にフォーカスしている感じだ。なぜって音楽を作るのは人間であって、機材じゃないから。

レコーディング機材も、一般化してマーケットというか商売になって久しいと思われ、どうしても資本主義の世の中では、そういった商売人の方が目立ってしまうけれど、歴史上、素晴らしい機器を開発してきた人たちは、必ずしも「商売人」ではなかった。当たり前のことだけれど、重要だ。

 

さて、ちょっと遅い話題にはなるけれど、この夏の、いつごろだったか、Plugin Allianceが、やたら盛大に前振りをした上で、サブスクリプションサービスを発表し、かなりmixed receptionというか、非難轟々になったことがあった。
あれはポップコーン頬張りながら、炎上するコメント欄やフォーラムを見ているぶんには面白かった。
これ以上ないくらい、そりゃ炎上するだろ、っていう発表の仕方、考えうる限り最悪の段取りだったわけだけれど、逆に、炎上を狙ってやったということも十分考えられる。

そして、それくらい、今の時代の「商売の世界」が、厳しいんだろうな、ということも、想像することくらいは出来る。

 

Plugin Allianceには複雑な感想を持っている。

大抵のツールでも、バンドでも、なんでもそうだが、僕はあんまり商売の上手いところよりは、不器用で商売の下手なところのファンだったりすることが多い。プラグインなら、たとえばSonimusだったり、Nomad Factoryだったり、Bozだったり(ここは商売上手かも)、WaveArtsだったり、これは老舗だがEventideだったり。

(Valhalla DSPはめっちゃ面白いが、すでにみんな使ってるだろうから、敢えて言う必要がない)

もっとも、商売の上手な大手が世の中を支え、そして僕も普段、そんな大手の道具に日々支えられていることも事実だが。

 

そして、ハイプっぽい、みんな使っている流行のものはあまりピンと来ないことが多い。
それは、録音のための音楽制作ツールみたいなものも、ハードウェア機材であれプラグインであれ、一般大衆向けの商売になって久しいので、必ずしも本当に仕事をするためのツールが評判になるとは限らないからだ。むしろ、能書きだけが先行する微妙なものばかりが評判になることが多いと感じているからだ。

僕はデジタルというか、デジタル自体は便利な道具だが、デジタルをめぐる世の中の動向というか、つまりは「アップデート」というものを必ずしも信じていない。世の中は市場原理で動いている以上、進歩する分野ももちろんあるが、逆に「悪くなっていく」分野も多々あると思っているからだ。

使っているOSのバージョンも、それほどアップデートしていないので、たとえば最新のWavesもインストール出来なくなって久しい。だから、Wavesは限られたものしか持っていない。(正直に言えば、Wavesは決して嫌いではない)

最新流行のプラグインは、大抵インストール出来なかったりして、そもそも選択肢から外れることになる。

だがそんな中で、Plugin Allianceは、比較的古いコンピューターにもインストール出来たので、随分と助けられた。

 

 

PAのプラグインを使い出したのは、確か2016年、”Jesus Wind”の制作をしている時だ。

結構、バーゲンをやっていたので、いくつか入手して、タイムリーに本当に役立ってくれた。そしてそのクオリティにとても感銘を受けた。(もっとも、ギターの音の半分はEventide UltraChannelだけどね)

PAの中にも、いろいろなブランドの製品があるけれど、僕がその中でも好きなのは、Lindellとか、SPLとか。あとはなんだかんだ、”Overture”のレコーディングでUnfiltered Audioを多用したり。elysiaは良いツールだけど、実はどうでもいいかな(笑)
それ以外にもお気に入りのやつはいくつもある。(Vertigo、ACME、BAX EQ、Millennia等)

 

けれど、いつの頃からか、PAおよび、そのメインのブランドであるbrainworxについて、なんだか複雑な気持ちを持つようになった。(ギターアンプのプラグインについては何度もブログに書いている)

僕はそもそも、Neve系(本物のNeveの実機とかいじったことはたぶん無いが)のツールに対して、複雑な印象を持っていて、そのせいもあるのだが。(Neve系のEQとか絶対に必要だが、Neve系のツールの独特の音や、トランジエントが非常になまるところ等、必ずしも好きではない)

どうにも、brainworxおよびPAの製品に対して、音の上での「価値観の押しつけ」を感じるようになったからだった。(言い方は語弊があるかもしれないが「14K以上は全部カット」みたいな価値観)

たとえば僕もbx_console Nは持っているし、度々使っているし、凄まじく強力な道具だと思うし、太い音とか、そういう方向性が合う時には非常に強力なツールではあるが、けれども個人的にやっぱりあんまり好きではないのである。

また、僕はすべてのチャンネルにそういったコンソールシミュレーターのプラグインを立ち上げてミックスする、みたいな事にもあまり賛同していない。もちろん曲とか、音楽の方向性によってはアリだと思うけれど。それはせっかくデジタルの自由な環境なのに、その自由な音の選択肢、価値観の選択肢をわざわざ放棄する行為のように思えるからだ。

だから、ある時期以降、僕はPAの製品に対して、良い道具だし必要なケースは多々あるので、そこは認めて使うけれども、なんか好きじゃないなぁ、みたいな感じだった(笑)

 

PAのFacebookグループとか、フォーラムとか見てると。
いまどき、どこの「ブランド」もそうなんだろうけれど、「宗教かよ」って(笑)

価値観の押しつけ。世界観の限定。
宗教じゃん、って(笑)
そもそもオーディオは宗教と相性が良いのは、昔からだと思うが(笑)
(神は、目に見えない。そして音も、目に見えない。だからそこに、「商売」の余地がいくらでもある)

今の時代にあっては、バンドであれ、アパレルであれ、どこのメーカーであれ、何を売ってる会社であれ、みんな「宗教商法」をやっている。(ブランディング、って言うな、笑)

そうやって囲い込まないと、細分化し、多様化したインターネット時代には商売にならないからだろう。

いつも言っているジョークであるが、うちのバンドは「クリスチャンバンド」という宗教をテーマにした音楽をやってはいるが、「宗教商法」に関しては、断固としてノーを突き付けているバンドなのだ(笑) 事実、どこのキリスト教の「組織」や「団体」ともほとんど関係を持っておらん。(持てればよかったのだが、そこはほら、「ヘヴィメタル」だから、そもそも無理なのだ。笑。)

まぁ、いずれにせよ、Rupert Neveみたいな人たちは、その「宗教商法」のご本尊として、すでに「神棚」に祭り上げられているだろう。(感謝はしてるさ、僕だって)

 

少し話題の矛先は変わるかもしれないが、
チャンネルストリップってものに最近、遅まきながら興味が出てきていたので、色々と物色してみるのだが、
チャンネルストリップっていうのは、つまり日常の作業の効率というか、日頃の退屈な作業をやっつけるためのお仕事ツールなのかもしれないな、ということに最近気が付いた。
(そして、アナログのコンソールが普通の、唯一の道具だった時代にはそれが普通であり、日々の作業だったはずだ)(つまり「アウトボードのEQ」なんて、たまにしか使わなかったはずだ。今ではDAW上で、チャンネルごとに違ったEQプラグインを立ち上げてもちっとも不思議ではない。)

コンソールっていうのは、アナログの時代から脈々と続く「価値観」であり、ひとつの巨大な「世界観」であると思っている。なので、その一部を取り出した「チャンネルストリップ」にも、その「世界観」というものが、単体のプラグインよりも色濃く表れていると思う。

そんで、NeveにはNeveの世界観があり、APIにはAPIの世界観が、あるんだと思う。(たぶん)

(そして、僕はTrident系の、というよりはMalcolm Toftの世界観になんだか惹かれて、PMI JoeMeekだけでなく、Toft Audio ATC-2とか手に入れてしまった)(使ってみたら、ATC-2、すごく「堅実」で「まっとう」なツールだったよ。EQは、真面目すぎるくらい真面目。FETコンプは、そういうもんだろうけど、温厚と暴走が両極端だったけど。)

でも、最近、SSL系のチャンネルストリップのプラグインをいくつか使ってみて思ったのは、間違っているかもしれないが、SSLっていうのは、その「どメジャー」「高級」みたいなイメージとは裏腹に、実際の作業においては、泥臭い作業をやるためのツールなんだな、ということに思い当たった。(音そのものは、洗練されてpristineだけれども)

つまり、日常の退屈な「お仕事」を、どうってことのないいつもの処理を、きちんと業界標準のクオリティで仕上げるための、「毎日のつまらないお仕事」をやるための道具なんだな、ということに、思い当たった。
(とはいえ、毎日あたりまえのように使える道具、というのは、それは凄いことだということも、当然言える)

逆にNeveをはじめとする「味のある」ツールの方が、作業をしている人の立場から見れば、「贅沢」ということになるんだろう。万能ではないかもしれないが、その無駄が贅沢、みたいな。

しかしここで、限られた選択肢の中から選んだ、僕のお気に入りのチャンネルストリップのプラグインについて語ることはやめよう(笑) それは秘密だし。

 

結局、何が言いたかったのか、それは忘れたけれど(汗)

「アップデート」というものを信じていない僕にとって。
そして、最近のPAの新製品は、もちろん相変わらず高いクオリティで、良いものもあるが、どちらかといえば商売上手な、ハイプ色の強い製品が多かったのであるから、僕はもちろんsubscriptionするという選択肢はからっきし無かった。

BYOME(Triad)は良いと思うが、けれども、たぶんHOFA Systemの方がそういった「日常の泥仕事」ツールとしては数段上だ。(と思う)(いまだにIQ-Reverbは手に入れていない。ずっと欲しい欲しい言って、いまだに手に入れていない。でもHOFAは非常に過小評価されていると思う。)

いつかまた、本当に必要な時には、買い足したり、サブスクったりすることもあるかもしれないが、

それよりは、もっとマイナーなディベロッパーの、「不完全ではあるが妙に個性のあるツール」の方を使っていきたいな、とか、そんなことを思ってしまう。

道具に多様性がなくなったら、音の多様性もなくなってしまうだろう。
そんな世界を望んではいない。

とりえあず、真面目すぎるくらいに真面目にやってるSonimusと、個性派を貫き通してきた老舗であるNomad Factoryは、みんな応援しようよ。してくれたら嬉しいです。Sonimus Tucoやばいよ。試してみなよ。

そこへもってPAもWavesもなんとなく使ってられたら良いバランスかな。

結論を見失ったが(笑)、僕とPAの、アンビバレンツな付かず離れずの関係は、なんとなく続いていくだろう。

「新しいプラグインなんて必要ないよ」「これ以上、EQのプラグインなんてひとつもいらないよ」って、いつも言ってる。

でも、気が付いたらまた増えていたり。
みんな、そんな感じだろ(笑)

 

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