ちょっとプラグインエフェクトの話をしたついでに、ギターについても書いてみよう。
ギターのプラグイン、ギターアンプのプラグインというのか、いわゆるアンプシミュ、アンプシミュレーターのプラグインの話だ。
前にもパソコンの中のアンプシミュレーターについて書いたことがあるけど、日付を見るともう3年も前の記事だね。でも、書いてることはあまり変わってないかも。。。僕自身も進歩してないのか(笑)
デジタルによるギターアンプのシミュレーションも、現代では随分進化している。
というか、進化しているんだろうな〜、ということはなんとなく認識している。
それでも、僕はやっぱり本気で作品を作る時には、本物のアンプで本物のキャビネットを鳴らし、マイクを立ててレコーディングしたいと思っている。
それはアンプシミュレーターの音が悪いからではなくて、どちらかといえばその逆だ。
完璧な音が簡単に録音できてしまうシミュレーターでは、作品を作ったという気分にどうしてもならない。
不完全な部分や、理想的ではない部分も含めて収録しなければ、本当に自分のありのままの姿を表現したことにならないからだ。
それには、どうしてもこのアンプでなくてはダメだ、とか、どうしてもこのキャビネットで鳴らしてみたい、だとか、どうしてもこのマイクで録音しなければ自分の音にならないんだ、といったような小さなこだわりも含まれる。
すべてデジタルの箱の中で完結するシミュレーターには、奇跡が起きる余地が少ない。
無いわけではないが、実際に物理的に空間の中で、tactileに鳴らされるプロセスの中には、ちょっとした奇跡の起きる余地が多分に残されているように感じている。そしてどちらかといえば、その奇跡の中にこそ、僕が表現したい情報は、伝えたいメッセージは、存在しているように思うからだ。
とはいえ、僕だってこれまでも、ちょっとした曲とか、ちょっとした作業とか、ちょっとしたおまけの曲とか、そういったアンプシミュレーターのプラグインを使って作ってしまったことは何度もあるけれども。
これも前にも書いたことがあるけれど、僕はそんなに、いろいろなアンプシミュを試したわけではない。
けれども、世間で評判のいいNeural DSPとか、STL Tonesとか、あとはもうちょい一般的なBIAS FXとか、TH-Uとか、だいたいひととおり試していると思うんだけど、やっぱりあまり良いとは思わず、辛口の評価をしてしまっている状態だ。少なくとも、前に試した時はそうだった。
また、価格の安さで最近広まっているAudio Assaultなんかも、おもちゃとしては十分に面白いが、本気で使うにはちょっと無理かな、といった感じだ。でも悪くないし、好感は持っている。
これは、そもそもギターサウンドというものが多様性があり、良いギターサウンドといっても、様々な価値観があり、またその価値観も時代によって変わるものだ、という前提がある。
そして、いわゆるモダンなハイゲインサウンドとか、今っぽいジェントやプログメタルのサウンドにまったく興味のない僕は、たぶんギターサウンドについても古臭い価値観を持っている方だろう。つまり、いまだにJCM800が標準、みたいな感覚だ。
で、もって、さっきのコンプレッサーのブログにも書いたけれど、なんだか僕は、2016年以降、成り行きでPlugin Allianceのプラグインを多用するようになってしまったが、PAはギターやベースのアンプシミュのプラグインも多数提供しているから、成り行きでそれらを使って、その品質も、かなり良いものだったので、なんかもう「これでいいや」みたいになって、基本的にそこで止まっている。
ただ、Plugin Allianceの製品全般に言えることだけど、特にギターアンプに関しては、そのチョイスというのか、セレクションというのか、品揃えが、結構微妙なものであったため、その使い心地については常に複雑な気持ちであった。(最近は、それでもかなり種類が増えたけれど)
かなり以前にもちょっと書いたことがあったかもしれないが、
曲を書く時のテンプレートにはいつもENGLのE765 RT RetroTubeがセッティングしてあった。
それは、そのアンプが好きだったからではなく、なんとなく自分のスタイルとして丁度良かったからだった。
また、音楽性の幅がわりと広い多様性のあるハードロックが好きな自分としては、Friedman DS-40 Dirty Shirleyもかなり好きだった。ただ、あれはちょっと頑固なところがあるけれども。
一般にもっと人気があるであろうところの、Friedman BE-100については、悪くはないし、実際とても良いけれど、やっぱ自分はプレキシっていうのはちょっと苦手だな、という印象しか受けなかった。ああいうのはもっと体格のいい男らしくマッチョなギタリストが弾くもんだと思っている。プレキシは、騎士の道具だ。自分みたいなナヨナヨしたタイプが弾くものではない。
またハイゲインものではENGL Savageはやはり良かったし、ENGLって苦手だったけど、中には確かにいいものもあるんだなと思えた。ただ、ちょっとタフ過ぎるというか、ハード過ぎるきらいはあるけれど。
で、SuhrのPT100は、確かにモダンなハードロックのアンプという意味では、僕のスタイルには非常に合っているが、便利は便利なんだけど、ちょっと弾き易過ぎるきらいがあって、あまり奥が深くないというか、すぐに飽きてしまう音であるのも確かであった。
でもなんだかんだいって、Marshall JCM800の2210をシミュレートしているところの、bx_rockrackが一番いいんじゃないかという気もしている。
よく考えてみると、JCM800でも、2203のシミュレートはたくさんあるけれど、2210のモデリングっていうのは、貴重に思えるからだ。どこかで読んだには、2210にはクリッピングダイオードが入っていて、その意味ではピュアな真空管の歪みでは無いらしい。けれど、そのぶんタフでワイルドな音だということも言える。
これは、bx_rockrack V3は、前はあまり良くないなと思っていたんだけど、入口のオーディオインターフェイスを変えて、また入力のインプットを落としたら、ちょうど良い反応の音になったんだよね。
どうやらPAのアンプシミュレーターは、入力が大き過ぎる傾向があるみたいで、DI入力の種類にもよるだろうけれど、インプットゲインを何デシベルか落としてやった方がいいことがあるみたいだ。
そうはいっても、2203もなければ、5150もEVHもないってことで、やっぱりPAのアンプには、なんかど真ん中が無いよな、と思っていたんだけど、
よく考えるとNembriniがあるじゃん。
Nembriniだったら、作ってる人はPAのアンプシミュと同じだから、そこで5150とかSoldanoを入手すればいいわけだ。
昨年のセールの際に、NembriniのSoldanoを入手したけれど、僕はそれでもう十分満足という感じですよ。キャビネットもとてもよく出来ているように思えるし。
PAやNembriniのシミュレーターは、現実に存在する定番とか名機を元にしたものだけれど、プラグインを使って、コンピューターの中でギターの音を作ることが普通になった現代では、そういった実機に基づかない、デジタルの世界の中だからこそ、といった製品も、色々とあるように思う。
たとえばこの前、Otto Audioっていうのを見たんだけど、
読み方がよくわかんないんだけど、イレブン・イレブンっていうのかな。
II II II IIっていうやつ。
あれなんかは、「そんなギターアンプ無えよ」といい意味で言いたくなるような、ちょっと面白い音をしていたね。
たぶんそういうのを使って、今までに無かったような新しいメタル音楽が、生まれてくるんだろう。
かといって、僕はそれを全然いい音だとは思わなかったけれど。苦笑。
さて、そうやって、気が向いた時に少しずつ見たり、聴いたり、試したり、してはいるものの、使っているパソコンがちょっと古いこともあって、
僕の一番のお気に入りの「ギターアンプ」のセッティングは、数年前から依然として変わっていない。
そして、一番いいことは何かっていうと、これが、実はフリーなんだよね。
無料のやつの組み合わせなのですよ。
プリアンプは、Mercuriallがフリーで配ってるやつ。
JCM800とか、JCM800 Hotとか、あとCornfordを元にしたHarlequinとかあると思う。それらが、ぜんぶ素晴らしい。
これらのクオリティが素晴らしいので、僕はたぶんMercuriallはすごく評価してる。
評価してるから、有料の製品も素晴らしいんだろうなーと思っているんだけど、CPUやら何やらで、自分の環境でうまく動かないから、ほとんど試してなくて、ちゃんと評価出来てないんだなあ。
だって、この無料のプリアンプだけで十分に素晴らしいから、それだけでお腹いっぱいになっちゃって。
実のところ、プリアンプだけでなく、その前段に置くためのオーバードライブに関しても、このMercuriallの無料のやつ、TSCっていうのが、いまだに一番気に入ってるから、ほんとにMercuriallさんは実力があるのだと思う。
そして、オーバードライブ、プリアンプとMercuriallのものを使って、その後に、Ignite AmpsのTPA-1っていうパワーアンプシミュレーターを置く。
これがまた、機能も音も申し分ない逸品なのよね。
で、ここまで全部フリー。
キャビネットに関しては、それぞれ好きなIR (インパルスレスポンス)を使えばいいと思うけれど、キャビネットのIRだって、無料で良いものがインターネット上にはいくつもあるでしょう。
だから、僕にとっての現時点での「コンピューターの中の最高のアンプ」は、全部無料で構築出来てしまう。
キャビネットのIRについては、実は「これ」っていうお気に入りは、ひとつかふたつ、あるんだけれど、これがまた、たぶんあまり人が評価しないような、マイナーなスピーカー/キャビネットのものだったりする。ただ僕は、ヴィンテージというよりは、どちらかといえばモダンでハイファイな音を好む傾向があるから、スピーカーの選択にもそういう好みは表れていると思う。
ただ、このMercuriallのJCM800にしても、反応は素晴らしく良いし、音もリアルだと思うけれど、実際にこれを使って作品を作ろうとすると、反応が良過ぎたり、音がきれい過ぎたりして、不都合もあるかもしれないね。
そもそも、JCM800は決してハイゲインではないから、いまどきのメタルを演ろうとしたら、これでは成立しない。
だったら、Neuralみたいな、もうちょっと流行りの、ぱっと立ち上げてそのまんま完成した音が出るようなプラグインの方が便利なんだと思うね。
そういえば、最近ではBogren DigitalのAmpKnob RevCっていうのが流行っているみたいだ。ノブがひとつだけしかないという、逆転の発想のプラグイン。試してみたい気はするけれど、僕はこれまでにMesa Boogieを好きになったことは全くないからね。他人が弾いてるぶんにはいい音だなと思うけれど、自分で弾くと気に入らない。
でも、そういうふうに、ギターを録音するという概念自体が、これからどんどん変わっていくんだと思う。
もうすぐリリースする予定の、うちのバンドの新しいEPは、本物のギターアンプをロードボクス経由でパソコンに放り込んで、そこでキャビネットのIRを経由して鳴らして作った。
いわばハイブリッドな方法を採用したわけだけれど、それは、そもそもそれらの楽曲が、Patreonのために作ったものだから、手間と費用の関係で、それがベストな選択だったからだ。
結果は悪くなかったと思う。
むしろ良い結果だった。
けれど、やっぱりそれでも、IRってやつはスタティックな感じがする。僕がコンボリューション方式のリヴァーブにそれほど魅力を感じないのと同じで、音は確かに正確だけど、どこか生きている感触に乏しく思うんだ。そして、周波数的にもダイナミクス的にも、なんか制約のある箱の中でやってる感じは否めない。
だからやっぱり、僕は本気で作品を作ろうとなったら、今でも本物のアンプで、本物のキャビを、大きな音で鳴らして作りたいと思うだろう。
今のところは、まだ、そんな感じだ。
あと2年後には意見が変わってるかもしれないけれど。