続、フライングVと私

 

 

昨年の6月頃に、フライングVと私、というブログ記事を書きました。

それは、僕が2013年頃から愛用しているHamer USAのフライングV、Korina Vectorについての雑感を綴った記事でした。

その記事の中でもちらっと書いたように、僕はそのギター、Hamer Vector Korinaを8月/9月に行ったアメリカ遠征(The Extreme Tour)に持っていきました。

その結果、行きの飛行機で(ちょっと予想していたけど)ヘッドが破損するというアクシデントがありつつも、速やかにリペアしてもらうことが出来て、無事にツアーで使用。バンドとしては10年ぶりの渡米でしたが、素晴らしいアメリカ遠征を成し遂げることが出来ました。

 

そんでもって、先月末に行った愛知県ミニツアーでもこのHamer FlyingVを使用。

愛用の楽器として、ますます手に馴染んできた感じがあります。
(とはいえ、先の記事にも書いたように、このギターに感情的な思い入れは、実はそれほど無いんだけど。だから躊躇なくツアーとか遠征みたいな時にも持っていける。)

 

そのアメリカ遠征における、ネック折れ、ヘッド折れを経験した顛末。
ツアー中の使い勝手などについて、あらためて書いてみたい。

今僕にとって、このUSA製のフライングVがどのような立ち位置にあるか、その心も書き記しておきたい。

もちろんギタートーク、機材トークの一環ですから、記事の内容としては同輩のギタリスト諸兄に向けたものとなります。たぶん。いや違うかな。

 

 

まず、昨年、アメリカツアー(ツアーって書くの気恥ずかしい)に出かける前に、僕はFacebookのHamer Guitarsのグループにて、このギターについて質問してみました。

前にもHamerのファンサイトで、このギターについては質問したことがある。
だから、おおよそのことはわかっていたのだけど。

 

このギターは、1997年に作られたもの。
それはシリアルナンバーから判別できる。

1997年当時、Hamerは、72本のコリーナ製フライングVを限定生産として販売した。
それはHamer Guitarsの歴史の中でも最上クラスの評価を受けており、今ではかなりの値段で取引される品となっている。(Gibsonと比べれば安いと思うが)

しかしそれとは別に、Hamerは日本市場向けに、同様のコリーナ製フライングVを作り、それらは当時の日本の輸入代理店である中尾貿易によって販売された。

この日本向けに作られたKorina Vには、通常のシリアルナンバーの他に「N」と付いた番号が振られており、そのNとは「中尾」のことを指すらしい。(フォーラム/グループ等での元Hamer関係者のコメントによれば)(日本人としては、それって日本のNじゃないのかよ、と思うが)

 

僕がひとつ知りたかったのは、当時、果たして何本くらいのKorina Vectorが、日本市場向けに製作されたのか、ということ。

そしてもうひとつ知りたかったのは、このギターの指板に使われている材。これが通常のローズウッド(インディアンローズウッド)なのか、それとも希少材として知られるブラジリアンローズウッド(ハカランダ)なのか、ということ。これを確認したかった。

 

指板について確認したかったのは、このギターを海外に持っていく以上、入国審査とか税関とかの際にトラブルになるのを避けたかったからだ。ご存知の通り、ブラジリアンローズウッドが使われていれば、ワシントン条約だかなんだか、そういう国際法のあれこれで、問題と成り得る。(実際には販売品でなく、ミュージシャンが演奏に使用するものであれば大丈夫みたいな話も聞くが)

だからリスクを避ける意味で、確認を取っておきたかった。
このギターを作った本人とか、当時のHamer社の人に聞けば間違いないからである。

 

親切なことに僕がグループに投稿した質問に、現Shishkov GuitarsのMike Shishkov氏を始めとする元Hamer関係者が回答をしてくれた。

それによれば、当時。
日本向けに作られたKorina Vectorは2バッチあったらしい。
2回に分けて作られたということだと思う。

そして、最初のバッチで16本。次のバッチで10本が製作された、とのことだった。

その言葉を信じるのであれば、日本向けに製作されたコリーナVは合計26本ということになる。

そして、「N14」と書かれた僕の手元にあるこのギターは、おそらく最初のバッチの中の一本だろうと推測できる。

 

この話は前にも書いたけれど(それは僕がアースシェイカーのファンだから書くのだが)、アースシェイカーのシャラさんが、90年代後半のSly時代からずっと使っているHamerのフライングVも、おそらくこの日本向けに作られた26本のうちのひとつではないかと思われる。

これもフォーラムでの回答による情報だが、
日本向けに作られたこのコリーナVには、アメリカで販売された72本とは、二箇所に違いがある。

ひとつはナット。
アメリカで販売されたコリーナVには、牛骨の白いナットが付いているが、日本向けに製作したものは、これが黒いデルリン製のナットになっている。

もうひとつは、ボディの「股」の部分。
アメリカで販売された72本は、ボディの左右で二つの材が接合されているだけだが、日本向けに作られたものは、ギターを下から見た時に、「股」の部分に、小さな臍(ほぞ)のような材が接合部分に組み込まれている。

これは、Jol Dantzigが、アメリカ向けの72本を作った後、何本ものオールドのGibsonフライングV(58年とかのことだろう)を見ていると、その中にはこの「臍」を持ったものがいくつかあったらしい。そして、日本向けに作ったフライングVでは、この「臍」を再現したという事のようだ。

雑誌等に掲載された写真で見る限り、シャラさんのフライングVは、黒いナットが付いているように見えるため、たぶんその1997年当時に日本向けに作られたものであろうと推測している次第である。(違うかもしれないが)

 

そして、指板の材であるが、これはブラジリアンローズウッドではない、という回答を得た。

普通であれば、ブラジリアンローズウッドは高級材であるので、残念がるところかもしれないが、今回の僕のケースでは逆である。
僕は、これで安心してアメリカに、海外にこのギターを持っていけると、ほっと胸を撫で下ろした。

 

そもそも、僕は「世間で評判の良い何か」や「世間で珍重される高価なもの」にあまり興味を持たない方だ、ということもあるが、ギターに使われる材というのは、たぶん、僕が聞いたには、同じ種類の材でも、個体差とか、ものによって違いがある。だから材の名前よりも、実際の品質を見る方が重要だ。

そしてこのKorina Vectorに使われている指板のローズウッドは、かなり品質の良いものであるように思う。それは、サウンドや、触れた時の感触もそうであるが、この指板からは、良い感じの甘い匂いがするのである。ハードケースの中にしばらくしまい込んでおいて、久しぶりにケースを開けると、ふわっと、まるでお菓子のような甘い匂いが漂ってくる。

これは良いローズウッドに共通する特徴らしく、またブラジリアンローズウッドもそのような独特の甘い香りを持っていると言われるが、このような匂い、そして弾き心地やサウンドを持っているからこそ、僕は「別にブラジリアンじゃなくても、これは良いものだ」と考えているし、また、そういう匂いがぷんぷん漂っているからこそ「税関とかでブラジリアンと間違えられたらやだな」と思い、心配していたのである。

 

 

さて、そんな経緯を経て、僕はこのギターを昨年8月/9月にアメリカに持っていった。

すると、なんとなく予想はしていたものの、行きの飛行機でネック折れ(ヘッド折れ)という事故に見舞われてしまった。

過去に何度もバンドでアメリカに演奏しに行ったことがあり、アメリカ国内の移動も含めて、ギターを何度も飛行機に載せたことがあるものの、実は飛行機によるギターのネック折れというのは、僕は人生で初めて経験することだった。

 

これは以前の記事にも書いていたかもしれないが、今まで何度飛行機に乗っても大丈夫だったのは、過去に使っていたフライングVが、それほど値段の高くないやつで、ネックがメイプル製のものだったからだと思う。
メイプルであれば丈夫なので、マホガニーやコリーナのギターと比べ、折れる危険性は少ない筈だ。

そしてこのヘッド折れ、ネック折れは、ヘッドに角度の付いたGibson系セットネックのギターによく起きる事故であって、Fender系のボルトオン構造のギターでは、その危険性は少ないということも周知の事実であると思う。
(だが僕は幸か不幸かGibson系のセットネックのギターでないとしっくり来ないのだ!)

 

初めての事だったため、その場において、冷静な対処が出来たかといえば、やはり出来ていなかったであろう。

つまり、同輩のギタリスト諸氏にアドバイスしておくのであれば、もし飛行機から降りて、空港にて荷物を受け取り、預けていたギターが破損していた場合。

ちゃんと航空会社に、その場で文句を行った方がいい。
そして、出来ることなら事故証明のような記録をもらうといい。
そしてもうひとつは、破損したギターの写真を取っておくことだ。

僕は、飛行機にギターを預ける際に、「万が一破損しても航空会社は責任を負いませんよ」という書類にサインをさせられていた。
だからこそ、しょうがないと思い、その場で文句を言わなかった。

だが実際には、航空会社によっては、対処してくれるケースもあるようだ。
日本の航空会社はわからないが、アメリカの航空会社で、ソーシャルメディア等で拡散されることを恐れて、修理費用を負担してくれる、などのケースが報告されているらしい。

そして、事故証明や写真を取っておくというのは、後になって保険によって修理費が降りるという可能性があるからだ。海外旅行保険などには、持ち物の破損が含まれていることがあるため、場合によっては楽器の修理費も出ることがある。その際に、事故の証明が必要となるため、それらの記録を取っておく必要がある。修理した場合のレシートや領収書も同様である。

 

僕は、これまでに何度も飛行機に乗って、ネック破損の事故は今回が初めてだったため、ギターを飛行機に載せることには、やはりそれほど抵抗を持っていない。
それは楽器にもよるし、ケースにもよると思う。

今回、ネック折れという事故に見舞われたのは、ハードケースの中で、うっかりヘッドのスペースに、弦を何セットか入れていたからではないかと推測している。弦の入った箱がヘッドに当たり、衝撃が加わった際に折れる原因となったのではないかと考えている。

その証拠に、成田-ロサンゼルス-ポートランドという旅程の4回のフライトで、最初の成田-ロサンゼルス間でネック折れが起きたが、その後の3回のフライトはまったくもって無事だった。

 

驚いたのは、ヘッドが折れた状態でも、チューニングが可能だったことだ。
ヘッド折れ、ネック折れと言っても、それほど傷は深くはなく、いわば巨大なひびが口を開けたような状態だったからである。

ロサンゼルスの安価なドミトリーで一泊した際に、折れたギターをケースから取り出し、弾いてみたところ、なんとヘッド裏がぱかっと割れている状態であっても、普通にノーマルチューニングで、弾くことが出来た。(真似しないで下さい)

結構丈夫なんだな、このコリーナの材。僕はそう思った。
やはりHamerは良い材を使っているということなのか。

そしてこれは、僕はこのギターはあくまでツアー用なので、弾くのが楽なように09-42の細いゲージを張っているということも関係しているだろう。

 

そんなこんなで、ツアー開始を前にして、いきなりギター破損という事態に見舞われたわけだが、その場ですぐに修理するというわけにはいかなかった。

ロサンゼルスでの滞在は一泊だけであり、しかもその間に人に会う予定が入っていた。
そして翌日の昼にはもうポートランドに飛ばなければならない。

そんな訳で僕は翌日、ヘッド折れしたまんまのギターを再度飛行機に載せて、国内線でポートランドまで飛んだのである。

半分割れた状態のヘッド。
こんな状態でもう一度飛行機に乗ったら、完全にヘッドがちぎれてしまうのじゃないか。

そんなふうに思わなくもなかった。
だが僕は、なんだか大丈夫な気がしていた。

そして、これも実験だ、というつもりで、そのヘッド折れのギターをチェックインカウンターに預けた。

で、結果、ポートランドに到着してハードケースを開けてみたところ、そこにはロサンゼルスでケースを閉じた時と何も変わりなく、ヘッド破損も悪化しておらず、無事に(そもそも無事じゃないけど)フライングVがあったわけである。

やっぱ結構大丈夫なんだな。

僕はそう思った。

(正しいケースを使い、変な置き方さえしなければ、やはり大体、大丈夫だ)
そう思ったのである。

まあ単に運の善し悪しということかもしれないが。

 

で、ポートランドの空港で僕が次にしたことと言えば、電話をかけることだった。

もちろん、ポートランドのギターのリペアショップに電話をかけたのである。

なにしろ、二日後にはツアーが始まってしまう。
それまでにギターを修理しないと、困ったことになる。

事前にネットで調べておいたリペアショップに、何軒も電話をかけるが、なかなか通じない。

そもそも留守電だったり不在っていうところもあったが、
僕は日本の携帯電話を使って電話をかけているため、海外からの番号で出ないというケースも大いに考えられる。
そして、そもそも海外からの番号だからなのか、通話そのものが通じないというケースも多かった。

 

それでも、6、7件くらいかけた後で、ようやく電話に出てくれたショップがあった。

たどたどしい英語で状況を説明すると、予約はいっぱい入っているものの、特別に対処してくれると言う。

そして僕はギターを持ってタクシーに飛び乗り、ポートランド市内にあるそのリペアショップへと向かった。(ちなみにバンドメンバーは空港で待たせたままであった)

些細なことだが、今はアメリカではタクシーを使うよりもUBERを使って移動する方が一般的になっているが、実際に値段はあまり変わらないこともあるし、この時は時間が惜しく、UBERを待つよりも目の前のタクシーに飛び乗る方が早かった。

 

で、その対応してくれたリペアショップというのが、Portland Guitar Repairというお店である。

http://pdxguitarrepair.com/

店主のJamesは若かったが、経験のあるリペアマンであり、日本にも観光で来たことがあるらしく、僕が横浜から来たというと、行ったことがあるぜと言ってなぜかガンダムの話題で盛り上がることとなった。

そして結論から言えば、彼は一泊二日でヘッド折れを修復してくれて、翌日の夕方には僕は復活したギターを受け取ることが出来たのである。

料金は250ドル。
これが高いのか安いのか、僕にはわからない。
しかし、本来は予約制であるところ、特別に特急で作業してくれたことを考えれば、おそらく順等な値段だろう。

 

ひょっとすると、木材用のボンドを塗布してクランプするだけの作業かもしれない。いや、塗装などの補修もあるかな。
素人は、簡単な作業だと考えてしまうが、実際には様々なことがあるはずだ。

こういった場合にやってはいけないのは、素人考えで、自分で直そうとして色々やってしまうことである。
だからこそ、出来るだけそのままの状態で、自分では何もせず、プロにお任せするのが間違いない。

 

これはツアー報告のブログ記事やソーシャルメディアにも書いたことだと思うが、僕はこのギター破損というピンチに見舞われた際、バンドのソーシャルメディアのページに、「ギター壊れちゃった。修理が必要。修理代がかかる。助けて」と書いたところ、ファンの皆様のご厚意により修理代が賄えただけでなく、それを上回る費用が集まり、(もともとギャラの出ないキリスト教の伝道ツアーであるから)ツアーの移動などのコストに充当することが出来た。ガソリン代も高騰していたところ、本当にありがたいことだった。ファンの皆様には重ね重ねお礼を申し上げたい。(たぶん海外のファンの方々はこのページは読んでないと思うが)(そして自分の英語力では、ひたすらに”Thank you for your support”と繰り返すしかないのが切ないところである。)

 

ともあれ、これがそのPortland Guitar Repairでの一幕。
店主のJames氏、および、修理後のギターの写真である。

 

残念ながらギターが破損した状態の写真は撮っていなかった。それは、やはり急いでいたからであり、写真を撮るなんてことは思いもつかなかったからだ。けれども先述したように、保険などの申請に使えるかもしれないので、破損したギターの状態は写真等で記録しておいた方がいい。これも、この時点では考えも付かなかったことだ。

 

Portland Guitar Repairは完全予約制であり、店には鉄格子とかあって鍵がかかっており、予約および連絡の上で初めてドアを開けてくれるという感じだった。
店主のJames氏によれば、それはやはり、近年ポートランドの治安が悪化した影響で、そうせざるを得なくなったという話であった。

 

僕たちはオレゴン州そのものは過去に訪れ、海沿いの町で2度ほど演奏経験はあったものの、ポートランドという町自体を訪れるのは今回が初めてだった。行きと帰りで合計4日を過ごしたが、かつては美しくインディーズ文化やアートに溢れた素敵な場所であったが、近年は社会情勢の悪化に伴い、ホームレスで溢れる町となっていた。アメリカ社会の矛盾を目の当たりにして非常に複雑な気持ちにさせられた訳だが、どういった訳だが、このツアーと前後して、僕らはポートランドや近隣の人たちとたくさん友達になった。

 

だから僕たちはポートランドに対して、良い印象と悪い印象の両方を抱いて帰ってくることとなったが、どちらにしてもこの町にはまた立ち寄ることになるような気がしている。
そういったことは、また別の機会に書き記そうと思う。(そんな機会はないかもしれないが)

 

そして、リペアは良い感じの出来栄えであった。

二日後にThe Extreme Tourのチームと合流し、そこでメジャーアーティストとのツアー経験の抱負なRobert氏にこのFlying Vを見せたところ、「うむ、いいリペアだ。これはいい仕事をしている」と呟いていた。

 

ここで、ネック折れ、ヘッド折れ、それに伴うリペアということについて、持ち主、演奏者の視点からまた書いてみよう。

まずは精神的なショックである。
飛行機から降りて、荷物を受け取り、ギターのケースを開けたら、ヘッドが折れていた。
この時、ショックを受けなかったかといえば嘘になる。
しかし、それは最低限だったと言える。

前回の記事でも書いたが、僕はこのギターのサウンドや演奏性について大いに信頼はしているが、感情的な思い入れは実はそんなにない。
これは、Made in USA、アメリカ製のギターに、僕がそれほど憧れを抱いていないことも理由かもしれない。これが愛用している日本製のBacchusのレスポールであれば、僕はもっと大きなショックを受けるだろう。

だから、ツアーで使い倒してぶっ壊すためにこそ、僕はこのギターを所有している。
それは先のブログ記事でも書いた通りだ。

だからこそ、僕はヘッド折れしても、実はあんまり精神的なショックは受けなかった。
ただ、ツアー前にこういう事態に見舞われたので、困ったな、どこでリペアしようか、どうやって対処しようか、と思案しただけである。

 

そして、ギターのネック折れに関しては、ギタリストの間には都市伝説のようなものがある。
それは「ギターはネックが折れると音が良くなる」「ネック折れして修理したギターは、折れる前よりも音が良くなる」といった類いのものだ。

その良い例として、フライングVを愛用していることで有名なマイケル・シェンカーは「ギターはネックが折れれば折れるほど、毎回もっと音が良くなって甦ってくる」みたいな発言をしていることが知られている(らしい)。

で、今回、僕はこの都市伝説について、自分の所有するギターでファーストハンドで体験することになった。
修理後のギターを弾いてみて、どう思ったか。

「こ、これは・・・良くなっている!」

正直に、そう思った。
いや、もちろん、まったく別のギターになったとか、変わった、という感じではない。
ギターの基本的なサウンドやキャラクターは変わっていない。

だけれど、なんだか、芯が太くなったような気がする。
折れる前よりも、もっと芯のある音になったような気がする。

気のせいかもしれないけど、たぶん気のせいじゃない。
そんな感じがする。

 

もともと、このKorina Vector、非常に鳴りの良い、オーガニックな鳴りを持つ素晴らしいギターだが、不満があったとすれば、フライングVの特性上、またコリーナという木材の特性上、ハイミッドに音が集まるので、場合によってサウンドが軽くなってしまうことだった。(まあ、細いゲージの弦を張っているから、それもいけないんだけど)

だが、ネックの修理後、音の芯がちょっと太くなったので、その弱点がある程度改善されたように思う。

だから、このネック折れと修理を経ることで、よりお気に入りのギターとなって、このHamer Flying Vは戻ってきた。

この点については、先のFacebookのグループに報告の投稿をしたところ、数人のリペアマンが以下のようなコメントをしてくれた。
「自分の経験ではネック折れを補修したギターは多くの場合、折れる前よりもサウンドが良くなる」「それは接着剤で補修した後は、もともとの木材よりも強度が増すから」「また木材の中にあったストレスやテンションが折れることによって解放され、より良い状態になるとも言われている」
これらが本当かどうかはわからないが、僕としては、なるほど、そうかもね、と思ったものである。

 

だからといって、サウンドの向上を狙って自らネックを折る人は居ないだろうし、そんなことは邪道である。ギタリストの倫理(?)としても問題がある。

あくまで、たとえネック折れしたとしても、適切なリペアをした場合に、より好みのサウンドになる可能性がある、という事であり、「壊れたとしても、ただちに落胆する必要はない」ということが言いたいだけだ。

そしてもうひとつ言えば、アースシェイカーのシャラさんのHamer Vectorも、雑誌の記事によれば、やはり同様にヘッド折れの補修をしているというではないか。
やった、これでシャラさんと一緒だ、なんて、むしろ嬉しくなってしまうのは、いけないことだろうか。これもファン心理というやつである。
そしてBattle Scar、戦いと冒険の中で出来た傷跡は、むしろ誇りであり、楽器に刻まれた歴史とも言える。

ただ、これは良いことか悪いことか一概には言えないけど、resale valueというのか、売却する際の市場価格は確実に下がったね。ネック折れの補修後があれば、中古での価格もきっと下がるだろうから。
でも僕は、このギターを死ぬまで弾き倒すつもりでいるから、これはあまり問題ではない。むしろ価値が下がって、盗まれたりする危険は減るかもね。

 

 

さて、そんなトラブルを経た後、僕たちはThe Extreme Tourのチームと合流し、そしてツアー本編が開始された。

日本のライブハウスと違い、アメリカではバンドが演奏する際、ほとんどの場合にはドラムキットやアンプ等は自分のものを持ち込んで使うことになる。

実は僕らは過去に、[Tone-Hassy-Jake]のラインナップだった頃にアメリカを訪れ、その際に購入したアンプをテキサス州のさるお方のところに預けっぱなしになっている。(もし、まだ保管していただけてあるのであれば)

だが、そこからオレゴン州まで送っていただくのは現実的ではないし、今回は他のミュージシャンと一緒に回るのであるから、それらのバンドの機材を借りる方が早い。

 

問題は、自分に合ったものがそこにあるとは限らないという点だ。

事前に連絡しておいた段階では、僕はツアースタッフの方に、「出来れば真空管のアンプで、Marshall系のものがあるといい」と伝えていた。

真空管のアンプで、一応僕らはメタル系のバンドだとは言っても、よくメタルバンドが使っているようなMesa Boogie Dual Rectifierとか持ってこられても、僕たちのスタイルには合わなかったりする。僕たちの場合は、むしろもっとクラシックなアンプの方がいい。

 

今回、ツアーチームで移動も含めてお世話になり、ずっと行動を共にしたのは、Robert Anthonyというミュージシャンの方である。

https://www.robertanthonyband.com/

彼はY&TやAlice Cooper等で活躍したギタリストStef Burnsの教え子にあたる人であり、そのStef Burnsと共にツアーの舞台監督として、様々なビッグアーティストのツアーに参加した、いわば音楽業界のベテランだ。
もちろん本人もミュージシャン/ギタリストとして立派なキャリアがある。彼の音楽性はいかにもアメリカンなブルースロックといった方向性のものだ。

そんなメジャーな音楽業界で叩き上げた方と一緒に回るのも非常に良い経験で勉強になることが多く、実際演奏の現場ではステージの設営から音作りに至るまでRobert氏は常にリーダーシップを取っていたわけだが。

そんなRobert氏が持って来ていたのはMarshall Origin50Hというアンプであった。

クラシックなMarshall、ピュアな真空管サウンドということで、蓋を開けてみればこれが僕の演奏スタイルにぴったりであり、またHamer Korina Vectorとの相性もよく、このアンプが使えたことはまさに神の配剤と言える、本当にありがたいことだった。

 

そうはいっても基本はプレキシ系のゲインの低いアンプであるが、手持ちのオーバードライブでブーストすることによって、なんとか必要な歪みを得ることが出来た。
そしてこのアンプはパワー段の切り替えスイッチがあり、出力を50W、10W、5Wと切り替えることが出来るのだが、当然、ワット数を下げるほど、パワーアンプのサチュレーションが増し、歪むようになる。
で、僕はこれを、結局5Wの設定で使用したのである。それが一番、ちょうどいい歪みが得られたからだ。

5Wなんて言うと、数字の上では全然パワーが無いように思えるが、実際に現場で鳴らしている限りでは、パワー不足はまったく感じなかった。あんまり数字とかあてにならない。真空管アンプというものは、そういったものかもしれない。

 

キャビネットはCarvin製の1×12のもの。Robert氏の話によればスピーカーはCelestion製とのことだったが、出音にまったく不満はなく、ステージボリュームもちょうどいい。

どちらにしても、Robert氏のアンプは、僕にとって今回本当に願ってもないほどニーズにぴったりのものであり、ミュージシャンとしての先輩として学ぶ面も含め、Robert Anthony氏は本当に尊敬できる人物であり、かけがえのない出会いだったと言える。

それは僕らが、メタルバンドと言っても、基本的にはクラシックロックをベースとした音楽性を志向するタイプのバンドだったから、ということもあるだろう。要するに僕はRobert氏とはプレイヤーとしても共通点が多く、意気投合することがいくつもあったのである。

 

昨今ではこういった真空管アンプを使うミュージシャンはやはり減っていると思われる。
つまり、もう少し大きな会場であるとか、規模の大きなアンサンブルの中であれば、Kemper、Fractal、Helixといったデジタル機器で音を作る方が現代では主流であり、その方が利に適っているかもしれない。

だが、僕らのようなインディバンドで、それほど大きくない規模の、ましてやThe Extreme Tourのような体当たりのショウを行う場合には、本物の真空管アンプによる生々しさを生かす方が、リアリティのあるライブを提供出来るように思う。

 

 

そして実際のツアー、演奏の中では、オレゴン州、ワシントン州の町を回る中で、非常に良い手応えを得ることが出来たわけだが。

そしてこの復活したHamer Vector KorinaのフライングVについても、やはりオーガニックでリッチなサウンド、現場での弾き易さ、そして何よりもそのルックスの説得力によって、良い結果をもたらしていた。
またオケージョンとしても、日本のバンドが野外での体当たりライブを行うといった場に、このギターは合っていたように思う。

 

サウンド的には95パーセントは非常に上手くいっていたが、残りの5パーセントほどで、うまくいかなかった部分があった。
それは、レパートリーの中でも、特にヘヴィさが必要とされる曲をやる場合に、フライングVの特性として少しばかり重さが足りず、狙ったサウンドを出せないことがあったのだ。

これは、やはりどうしても音が軽いというコリーナ材の宿命とも言えるし、あるいはアンプに関しても、4×12のスタックではなく1×12のキャビをプレキシ系のクラシカルなアンプで鳴らすということで、重さの演出に限界があったとも言える。

だが、ここでもし、フライングVではなくレスポールを持っていたら、きっとそれらの曲でももっとヘヴィでパンチのある音で決めることが出来ただろう。
けれど、100パーセント全方位で完璧なんていう楽器、機材はそもそも存在しない。

良いショウをして、お客さんに喜んでもらえて、素晴らしい体験を作り出すことが出来た。
それこそが、本当の結果であり、目的である。

その意味で、ついにこのHamer Vector Korinaをアメリカに持ち込んで演奏することが出来たが、その本来の目的は立派に果たしたと言える。

そんな旅路であった。

 

なんとなく。文字通り、フライングしている写真。

 

 

これまでのブログ記事にも掲載しているけれど、今のところYouTubeに上げてある昨年のアメリカでの映像はこんな感じ。やったショウのごく一部ではあるけれど。

 

 

 

そして、その後、日本での普段のライブ活動でもこのHamer Vector Korinaを(惰性で)使っていたのだが、

先月行った愛知県ミニツアーにも持っていって使用した。

過去の記事にも書いたように、「遠征」「ツアー」みたいな機会にこのフライングVを持っていくことが多いのは、見た目の説得力もさることながら、「軽くて取り回しがいい」ということも大きな理由だ。フライングVは軽いから、移動が楽なのである。

 

豊橋、名古屋、どちらの会場でも、Vectorは良い感じで鳴ってくれたが、実は僕はアンプの問題ということをずっと考えていた。

つまり、ライブハウスにはMarshall系のアンプが置いてあることがあるが、会場によっては無いこともある。

そしてこれは「ジャズコ問題」(JC)ということでもある。
日本のバンドマン、ギタリストがみんな共通して直面する問題だ。

つまり、会場によっては、どうしてもRoland JC-120にディストーションペダルを繋ぐ形で音を作らなければならない場合がある。

その場合、やはりどうしてもそれは、本物の真空管アンプのサウンドというわけではなく、幾分妥協した音となる。

僕は今まで、そのような場合にはBlackstar HT-Metalのディストーションを使い、それで及第点以上のサウンドは得ることが出来るのであるが、今回の愛知遠征を機に、果たして自分のコンボアンプ(安物)を持ち込むべきだろうかと、本気で考えた。

だが、やはり結局、運搬等の問題から、それは断念することになった。

で、名古屋のライブバーにて。
色々工夫してみたところ、必ずしも理想的とは言えない環境ではありながら、今までよりもゲインを下げたり、不要なローを削るなどして、本番では結構理想に近い音が出てしまった。

で、それでやっぱり、とても良いライブが演れた。
結果がすべて。

 

うん。わかった。
別にこのBlackstarでいいよ。
HT-Metal、これはエフェクターとしては重いけど、アンプを運ぶよりは楽だし。

遠い目をして、そんな悟りの境地に至った愛知遠征でのサウンド作りでした。

 

愛知の映像はまだYouTube等に上げていないけれど、Shinryu師範のインスタグラムに「ダイジェスト映像」があるので、それを参考までに掲載しておきます。名古屋の時のやつ。カメラの位置的にギターがあまり聞こえないけれど。

 

 
 
 
 
 
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僕らのバンドは、今でも無名のインディだし、(クリスチャンメタルというニッチの中では、海外でそれなりの認知度はあるかもしれないが)、決して盛んにツアーをやっている感じではないけれど、これでこのHamer Vector Korina “N14″は、アメリカではオレゴン州、ワシントン州、日本では、東京、神奈川、福島、長野、静岡、そして愛知でも何度かの演奏を経験したことになる。

もっと盛んにツアーしてる人たちからすれば、まだまだだけど、これからも「さてツアー」みたいな機会には、きっとこのギターを持っていくだろう。
やっぱり見た目も含めて、ライブの場では、とても使い易いギターだからだ。

そんでもって、やっぱりいつかぶっこわれて、もう使えない、ってなるまでは、なるべく使い続けたい。

 

 

さて、そうはいっても、昨年から惰性でなんとなくずっとこのギターばかり弾いていた気がするので、しばらく封印して、ハードケースにしまい込み、他のギター(Bacchusのレスポール等)を使うことにするよ。

で、またいつかハードケースを開けた時には、ローズウッドの甘い香りが、ふわっと漂ってくることだろう。

その日まで、お疲れ様、俺のフライングV。

 

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