そういった訳で、オーバードライブをレビューするための長い前提を、ひとつの記事として前回書いてしまった。
その上で、Keeley Red Dirtというペダルについて書いていきたい。
まずは、なぜKeeleyなのか、という点である。
いや、それよりも前に、なぜTS系なのか、という点である。
前回の記事でも触れたように、オーバードライブにはトランスペアレント系、同じような系統だがブルースブレイカー的なものや、Klon Centaurに代表されるクロン系/ケンタウルス系などがあるが、こと僕の用途に限って言えば、一般的なTS系と言われるオーバードライブがどうやら一番しっくり来るようだ、という前提がある。
これは、一般的なハードロックのMarshall系のサウンドの中で、アンプをプッシュするという用途で使うとすれば、やっぱり昔ながらのTS系が正解なのだ、といういかにも安直な理由によるものだ。
この昔ながらのオーバードライブと言う点で言えば、BOSSによるOD-1、SD-1、そしてIbanez/MaxonによるTS808 (OD808)、TS9というものが伝説的な存在であり、その代表とされる。両者の大きな違いはクリッピングが「非対称」「対称」という点にあるとされる。
恥ずかしながら僕はOD-1の実機は試した事がない。
だが、SD-1に関して言えば、僕はあまり好きではない。音の輪郭はぱりっとするし、定番のロックサウンドだし、非常に良いものだと言うことは理解出来るが、「非対称」の音の成分が、どうにも我慢ならないくらいに嫌なのだ。
なので一般論として、僕はどうやら「非対称クリッピング」の音が、あまり好きではない、ということが推論出来る。ただ、僕は手元にVFEのペダルをいくつか所有しているが、設定の自由度が非常に高いそれらのペダルはどれも非対称クリッピングのオプションを持っている。それらのペダルに使われている非対称クリッピングは必ずしも嫌いとは言い切れないので、すべての非対称クリッピングが嫌というわけではなく、ものによっては好きになる事もあるようだ。非対称クリッピングは、対称に比べて、歪み方の味付けが若干濃い目で、バンドサウンドの中でもより主張が強く抜ける傾向がある(ような気がする)。そういった非対称クリッピングの利点は理解しているつもりなので、良いものに出会えれば活用する事にやぶさかではない。
なんか話がちょっとずれたが、どちらにしても「TS系でいいじゃん」という事である。
すでに結構、何年も前のことになるが、僕は2018年から2019年にかけて、結構本気でオーバードライブのペダルをたくさんチェックしていた。
それは、大切な作品である”Nabeshima”を作るにあたって、本気で音作りの探求をする必要があったからである。
ある時、何日かかけて都内の楽器屋さんをめぐり、合計してかなりの数のオーバードライブのペダルを試奏した。
評判のやつ、ハイプってるやつ、定番っぽいやつ、色々試したが、やはりなかなかしっくり来るものは無かった。
その中で、最後に寄ったお店で、「ん、なんかこれ、しっくりくるぞ」というものがあった。
それはやはりTS系のオーバードライブであった。
それはたとえば音抜けとか、いくつかの面では、他のハイプったペダルの方が性能が上回っていると言えない事もなかったが、全体的なサウンドや使い勝手、キャラクターなどについて言えば、「いや、これが正解だろう」と思えるものだった。
それはKeeley ModPlusと言われるものであった。厳密に言えば、その頃にMammoth Electronicsの名義で再発、リイシューされていたTS9 MOD PLUSのモデルである。
それは確かに、通常のチューブスクリーマーの延長にあるサウンドではあったが、ギターサウンドの表現として、それが正統であり、正解である事を、自分の手が勝手に感じ取っていたのである。「なんだ、結局チューブスクリーマーでいいんですね」みたいな会話を店員さんとしたように思う。
で、これ、いいね、と言っていたところ、店員さんが「もっとゲインが高いやつあります」と言って、BakedModというやつを提案してくれた。で、それを試したところ、「わー、本当だ、もっとゲインがある。これは楽しい〜」となった。
しかし、そのタイミングで嫁さんから電話が入り、時間切れとなったのであった。
その日は時間切れとなったものの、僕はその「BakedMod」なるものを、手に入れることにやぶさかではなかった。
それはTubeScreamerのサウンドを、さらにbigに、boldにしたもので、なおかつゲインが高くて楽しいやつであった。
で、またあのお店にいって、再度冷静になって試した上で購入しようと思っていたが、現代社会の常として、インターネット上を見ると、同じBakedModが、トゥルーバイパス仕様で、もっと安い値段で、中古で売られていた。で、当然と言えば当然なのだが、僕は結局そちらを選ぶ事になった。
で、だいたいこういった経緯で、これが僕の”Keeley”との出会いである。
この”Mod Plus”にしても”Baked Mod”にしても、その時、数多くのオーバードライブを試した上で、いちばんしっくり来たものであるから、悪いものであるはずはない。その年、必死で色々試した中でのひとつの結論であるから、自分にとってはひとつの解答、ひとつの基準となる経験であったはずだ。
そんな訳で、そういった経緯で手に入れた”TS9 Keeley Baked Mod”(トゥルーバイパス仕様)を、その後メインとして愛用したかと言うと、全然そんなことはなくて、やはりメインは前回書いたように”Shoals”を使い続けたわけである。つまり僕としては、結論としては「色々試行錯誤したものの、やはりShoalsでいい」という答えに辿り着いたのだ。それはそれで、十分価値のある事だ。
Keeleyというビルダー、ブランドは、2000年代にエフェクターのモデファイで人気を博したらしい。Robert Keeleyという著名な天才ビルダーさんによるブランドだ。
2018年の段階で、限定リイシューされたMammoth Electronicsの製品でKeeleyに初めて触れた僕は、どちらかと言えば「後追い」でKeeleyを知った事になる。
Keeleyはもちろん、2010年代以降もエフェクターの定番ブランドのひとつとして存在しているが、流行の去った老舗ビルダーといった印象で、少なくとも日本のマーケットにおいては比較的影が薄い印象がある。影が薄いという言葉は正確ではないかもしれないが、少なくとも商品の流通している数は少ないように思う。一般のお店では、あまり見かけない。
だが、あれほどいくつものオーバードライブのペダルを試した中で、もっともしっくり来るものとして強く脳裏に刻まれたのだから、その製品の実力は高く、現代においても依然として通用する伝説的なビルダーではないかと思う。
僕は過去に、この日本語ウェブサイトのブログにおいても、この手元にあるTS9 Baked Modについて書いた事があるが、非常にゲインの設定が高く、なかなか扱いの難しいペダルということもあって、正当なレビューが書けたとは言い難い。
今回は、Red Dirtのレビューを書こうと思って筆を取った記事であるが、まずはこのBaked Modについて、あらためて僕の持つ印象と評価を書き記しておきたいと思う。
Baked Modのサウンドは、僕はかなり好きではあるが、実際に手に入れて使ってみると、ハムバッカー搭載のギターをメインで使っている僕の用途では、少しばかり低音が強過ぎるきらいがあった。ゆえに僕は、ソケットに載っていたオペアンプを載せ替えて試行錯誤し、結果的に高性能でハイファイなタイプのオペアンプに載せ替える事で、ちょうどいいものとなった。(ここまで使ってくる中で、厳密に言えば二度オペアンプを乗せ替えている。)
そのように、オペアンプを乗せ替えて、ハムバッカーメインで使用し、なおかつトゥルーバイパスの個体である。
また、個体差もあるかもしれない。少なくとも僕の手元にある個体はこうだ、という評価だ。
Keeley Modのチューブスクリーマーは、少しばかり音の質感がざらついており、音の解像度が高い、という特徴があるように思う。
この、ざらついた質感をアリと考えるか、ナシと考えるかで、まずは評価が分かれる気がする。
そして、音が生々しい。生々しいぶん、「ギター本来の音」という感じがすごくする。ギター本来の音が失われないという感じだ。
ざらついた音で、解像度が高く、音が生々しい。これは、もちろん良い事である。オーガニックな音の印象とも言える。
そして、改造TSであるから、音のレンジは普通のTube Screamerよりも広い。ハイミッドもよく出るし、ハイも出ていると思うが、それほど極端ではなく、どちらかと言えば低音が非常に出る。TS系のオーバードライブは通常、低音がかなり削れるが、このBaked Modは最小限しか低音が削れない。どちらかといえば、ハイ寄りではなく、ロー寄りの、低音がよく出るオーバードライブだと言える。それが、BIGで、BOLDなサウンドにつながっている。
先も述べたように、僕の用途では低音が出過ぎであった。また、TS系に特有のミッドレンジの出方も、少しばかり平坦で、特徴がなくつまらないと思った。これはもともと搭載されていたオペアンプ、RC4558Pが載った状態での印象だ。
なので僕はオペアンプをよりハイファイなものに載せ替えたわけだが、これによって低音もより削れるようになり(たぶんハイが出た結果)、ミッドレンジの出方もより好みになった。
難点としては、ゲインが高過ぎる点である。
Baked Modというのは、もともと通常のTube Screamerの3倍のゲインがあるという事を売り文句にしている製品なので、ゲインが高いのは当たり前のことであるのだが、使っていると「もうちょっとゲイン低めにしたいんですけど」という場面がある。DRIVEをゼロに設定してもまだ強い、という時があるのだ。
そして、このBaked Mod、確かにゲインは高いのだが、それが「使える歪み」かと問われれば、結構難しい。場面によっては使えるかもしれないが、一般的な使い方においては、「使えない歪み」である事の方が多い。しょせんはチューブスクリーマーである。単体の歪みとしては使えないと言われるチューブスクリーマーのゲインを増やしたところで、やはり使えないものは使えない。ざらついた歪みで、しかもすぐに潰れた音になってしまうので、その特有の音を飛び道具のようにして使うのでなければ、一般的には使いづらい歪みだと言える。
よって、せっかく「3倍のゲイン」を持っていたとしても、実戦において、ゲインのつまみを上げていくシーンは少ない。Toneのつまみも使いやすいとは言い難い。はっきり言うと、何年も所有していて、僕がこのBaked Modを使う時には、セッティングはだいたい同じ、ひとつだけである。そのひとつのセッティング以外では、使えない事が多い。ハムバッカー搭載のギターで、クランチアンプをプッシュしてハードロックを弾くという僕の用途において、このBaked Modのセッティングは、DRIVEがゼロ(またはほんのちょっと上げる)、TONEが3時くらい(上げ過ぎるとノイズが出る)、LEVELは1時か2時くらい(出力は十分過ぎるほどある)、となる。
僕が使ってみた印象だと、この「TS9 Baked Mod」は、「一芸に秀でている」が「不器用で扱いづらい」エフェクターである。
考えてみると、スタジオ機器であっても、名機と言われる伝説的な機材は大抵、こうした特徴を持っている。”One trick pony”ではあるが、”does one thing very well”というやつである。だから、その意味ではこのBaked Modも「名機」と呼べる実力がある。用途に合えば、これ以上無いというくらいの実力を発揮するからだ。
これまで6年間このペダルを所有してきて、このBaked Modをレコーディングに使用した事はそれほど多くはない。
自分のバンドImari Tonesの楽曲において、このBaked Modをレコーディングに使用したのは、これまでだと以下の曲になる。
“To Rome” (バッキング、ギターソロ共に)(2021年録音)
“Rock In Heaven” (バッキングのみ)(2023年録音)
“Small Flame” (ギターソロのみ)(2023年録音)
“Co-In” (ギターソロのみ)(2023年録音)
この4曲だけだ。このうち3曲はこれから発表する”Coming Back Alive”に収録されており、現時点で参考として引き合いに出せるのは”To Rome”だけであるが、参考としてそのビデオをここに掲示しておく。
比較的に粒の荒い歪み方であり、また生々しい音の質感と、音の太さがよく表れているのではないだろうか。曲の方向性としても、どちらかといえば古くさい、古典的なハードロックの音であり、イメージとしては、初期Ozzy Osborneの2枚のアルバムでRandy Rhoadsが弾いていたような音の質感を狙っている。(かもしれない)
こういった、ギター本来の生々しい音を、荒めの音の質感で出す場合には、このBaked Modは非常に威力を発揮する。この曲は一応、聖書アニメのオープニングにも使われているし、古典的な方向性だが、ひとつの成功例ではあると思う。
そのように、一芸に秀でてはいるが不器用で使いにくい、生々しくてゲインがやたらと高い”Baked Mod”であるが、このペダルを気に入っているかどうかと問われれば、「非常に気に入っている」とやはり答えざるを得ない。
ノーマルのTube Screamerと比較して癖の強い、不器用なペダルではあるが、面白いか面白くないか、で言えば、「非常に面白い」ペダルである。
使いどころが難しいので、実用性に関しては必ずしも高くないかもしれないが、普段ギターを弾く時に、弾いていて楽しいペダルという意味であれば、はっきり言って手持ちのペダルの中でもナンバーワンだと言える。いつかライブでも使ってみたいと思ってはいるが、なかなかちょうどいい機会が無い・・・
といった訳で、このBaked Modは自分としては「決して使いやすいペダルではないが、非常に面白く気に入っている」ペダルです。
しかし、
ゲインが高過ぎる(もうちょっと下げて使いたい)、
ゲインはあっても使えない歪み(すぐ潰れる)、
低音が強過ぎる、
かといってTONEを上げるとノイズが乗る、
などの欠点があって、扱いが難しい面は否めない。
もうちょと使いやすいものはないか・・・
ここで、僕はあの時、楽器屋さんで試奏した際に、Baked Modと一緒にMod Plusも試しているので、「ひょっとしてゲインの低いMod Plusを購入した方がもっと使いやすかったかなあ」と思わなくもないのです。
しかし、このKeeley Modなるものも、すでに世間では品薄で、なかなか手に入らない。あったとしても高額になる事が多い。
といった訳で、入手可能な選択肢として、Keeleyから今でも現行で販売されている”Red Dirt”というペダルが浮上してくるのです。
(注: 2024年時点で、いつの間にやら生産停止になっておりました。マーケットに、まだ多少残っているか、という感じ。)
Red Dirtとは、Keeleyの有名な改造Tube ScreamerであるMod PlusとBaked Modを一台にまとめたものと言われている。
じゃあ、なんだ、これでいいじゃん。
もちろんこのRed Dirtも、Keeleyという一流ブランドの製品(輸入品)であるからして、それなりに高額です。
けれど、ある時私は、中古で非常に安くなっているものを見つけました。
なので、ここは思い切ってゲット。2年くらい前の出来事かな。
Keeley Modなんていうものも、流行っていたのは2000年代のことらしいし、
このRed Dirtという製品自体も、発売されたのは2010年代の初頭のことらしいです。
ですので、今ではもうあまり話題になる事もなく、インターネット上にもレビュー記事のような情報は少ない。
なので、自分の思った事を書いてみるぜ!!
手元にあるBaked Modとも比較出来るしね。
果たして、Red Dirtと、Baked Modを比べたら、同じなのか、違うのか。そこらへん、気になるじゃない。
尚、ここで比較対象として、手持ちのTS9 Baked Mod (true bypass仕様)だけでなく、本当はMod Plusもあると良かったんですが、残念ながら僕は入手出来ず、直接の比較が出来てない。でも、Baked Modとの比較から、類推する事はなんとなく出来るように思いますよ・・・
> 追記。その後、運良くMod PlusとRed Dirtの比較をする機会に恵まれました。記事の一番下に追記しておきます。
–
Keeley Red Dirtは、KeeleyのチューブスクリーマーMODの集大成みたいなもので、Mod PlusとBaked Modを一台にまとめたものだと説明されています。
しかし、まったく同じというわけではない。
公式ウェブサイト(英語)の説明には、FET入力を使用した事により、より自然な真空管らしい歪み、改善されたダイナミズム、クリスピーでクリアなサウンドを獲得した、みたいな事が書かれています。
そして、実際に所有して使ってみた実感として、僕もこの「FET入力」により、通常のチューブスクリーマーや、TS9をベースにしたMOD品と比べ、質感が大きく変わっているように思います。
では、まずは僕が使ってみたところによる、Keeley Red Dirtの特徴を、以下に列記していきます。
– KeeleyのTS Modに共通する、ちょっとざらざらした歪みの質感は維持されており、キャラクター的にはMod PlusやBaked Modと似ている事に間違いはない。
– だが、FET入力によってより音がクリアになり、なんというか、音が少し浮き上がったような、よりモダンで立体的な音像になっている。
– そのぶん、TS9ベースのBaked Modに感じたような「音の生々しさ」は若干減っている。
– かといって、非常に抜けが良いペダルかと言われるとそうではなく、しょせんはチューブスクリーマーの範疇を出ず、チューブスクリーマーならではの「とろさ」を持っているので、現代的なペダルと比較すれば、必ずしも音抜けは良いとは言えない。あくまでチューブスクリーマーという感じ。
– ダイナミズム的にも決して優秀ではなく、一般的なチューブスクリーマーとして考えれば、それなりに反応は良い方かもしれないが、トランスペアレント系のODと比較した場合には、ピッキングのニュアンスに対する追随性やダイナミズムの面では確実に劣る。
– 音には高級感があり、リッチなきめの細かさが感じられる。これは、歪み方自体は荒くざらざらしているのだが、FET入力のおかげなのか、それを包み込む質感に高級感があるという印象だ。
– 整った印象の歪み方で、きれいな歪み方、きれいな倍音の出方だと言う事が出来る。素直でレンジの広い音だと言える。
– どこかエッジの立った、ロックっぽいニュアンスを持った歪み方であり、一般的なチューブスクリーマーと比較して、ハムバッカーとの相性が良いものと考えられる。
– かといって、シングルコイルでも非常に良い音像が得られる。しかしブルース的というよりは、若干ロック寄りのニュアンスになるかもしれない。
– Red Dirtの「HI」と、TS9 Baked Modを比較した場合、Baked Modは低音があまり削れず、ロー寄りの音だと言える。しかし、Red DirtのHIモードは、その逆にローがかなり削れて、シャープなハイ寄りの音となる。(ハムバッカーとの相性が良いと思われる)
– LEVELに関しては、圧倒的な出力を誇っていたTS9 Baked Modと比べ、Red Dirtの出力レベルはほどほどといった感じ。決して出力は小さくはないが、特段に大きい訳でもない。
– 音のクリアさという点で言えば、Red Dirtの方が改善されていて、TS9 Baked ModのTONEを3時にした時の音と、Red Dirt HIのTONEを10時くらいにした時の音が、だいたい同じ感じ。
– TONEの効き方も非常に優秀で、TONEが午前中の範囲でも十分に使える音抜けの良さがあるし、TONEを上げていく事によって、ハイがきつくなるのではなく、フォーカスするミッドレンジのポイントが変わっていく感じ。(その意味では便利ではあるが繊細な調整が必要)
– HIモードの方がトレブリーでシャープな音質で、LOモードの方がウォームでボールドな音質。そのため、そのままのセッティングで切り替えると音質の違いが結構気になる。
– HI、LOどちらのモードもゲインを上げていくと、やがて音がジャリジャリとして潰れてくるが、出力およびヘッドルームはHIモードの方が高い。同じくらいのゲインでも、LOモードでゲインを上げるのか(音は太く、ヘッドルームは低い)、HIモードでゲインを下げるのか(音はシャープで、ヘッドルームは高い)、といった選択が可能。どちらを選ぶかは用途次第であり、その意味では幅広い状況に対応出来るペダルだと言える。
– LOモードは暖かい音を持つ、上品で整った良質なチューブスクリーマーであるが、いくぶん音がもっさりしている印象もある。中庸な音であると言える。
– TS系の中では整った音で、その独特のレンジの広さが災いしているのか、普通のチューブスクリーマーのように「とりあえずかけとけば自動的にミッドが出て抜ける音になる」みたいな簡単な設定にはならず、出音が意外とフラットなぶん、TONEを繊細に調整したり、アンプのMIDの出方を見極める必要がある。その意味ではある程度上級者向けのオーバードライブと言えるかもしれない。
Red Dirtの「HI」は、実用性の面ではBaked Modよりも確かに大きく改善されています。DRIVEを下げた状態にすれば、Baked Modよりもゲインが下がるので、ぶっとびゲインでしか使えないBaked Modに比べれば現実的な設定が可能です。また、歪み方に関しても、DRIVEを上げていけばだんだとザラザラ、ジャリジャリが増して、最終的には潰れた音になってくるものの、TS9 Baked Modと比べればかなり使える歪みです。
ローが大きく削れて、ハイ寄りの音になる、というのも、正直最初は、「こんなにハイ寄りにしなくてもいいじゃん! Baked Modはローが出過ぎ、Red Dirt HIはローが削れ過ぎ、ちょうどいい塩梅ってのが無いのかよ!」と言いたくなったんですが、実際にはバンドの現場で大きな音を出す場合には、これくらいローが削れている方が結果が良いんですよね。少なくとも僕の経験では、家で一人で弾いてて「ローが出ないな」と思う機材でも、現場でバンドで鳴らして「ローが足りない」と思った経験はほとんど皆無。むしろ余計な低音は極力削る方向で調整することの方が多いです。ローって実際には感じ取るのが難しいし、ある程度大きい音量でないと、本当の低音はわからないところがあるので。
ですので、あくまで実用性を考慮した上での設計、チューンナップであると考えられます。
その逆に、Red Dirtのスイッチを「LO」側に入れると、ボールドで安定したTSサウンドに切り替わります。
曲によって、あるいは曲中でLOとHIを切り替えて使いたい、という方は結構いると思うんですが、「HI」側に入れるとシャープでトレブリーな特性となり、「LO」側に入れるとウォームでボールドな特性になるので、この周波数の特性の違いを考えると、そのまんま切り替えて使うって訳にはいかないかも。(TONEやDRIVEなどのセッティングを変える必要があると思われる)
つまり、TS9 Baked Modと、Red Dirt HIモードを比較すると、こんな感じです。
Red Dirt HIの方が低音が削れてシャープな音
Red Dirtの方がクリアで現代的な音だが、生々しさという点ではTS9 Baked Modの方が勝る。
ゲインの調整幅はRed Dirt HIの方が広い
TONEの調整幅もRed Dirt HIの方が広く、TS9 Baked ModのTONEは上げていかないと使えないのに対して、Red Dirt HIのTONEは下げていっても十分使える。
TS9 Baked Modの歪みが使いにくい歪みなのに対して、Red Dirt HIの歪みは結構使える歪み。
実用性ではRed Dirt HIの方が圧倒的に上
唯一無二の個性という点ではTS9 Baked Modに軍配が上がる。やはりこれに代わるものはなかなか無いという結論になる。
かといって、TONEを下げてセッティングを詰めていけば、Red DirtでもTS9 Baked Modに近いニュアンスは出せる。完全ではないが、8割型は似た感じになる。
TS9 Baked Modに似た音を出す場合には、「HI」モードだけではなく、「LO」モードでDRIVEを上げていってもかなり似た感じになる。(やはりTONEは低めで)
–
先述したように、本当はここでTS9 Mod Plusも手元にあったら良かったんですが、今のところ僕はMod Plusの現物を手に入れる事が出来ないでいるので、記憶を頼りにした上で、Baked Modとの比較からの類推です。
Red DirtのLOモードは、おそらくはMod Plusと非常に似ているはずです。ただ、Red DirtがFET入力を採用しているぶん、やはり幾分、Red Dirtの方がモダンでクリアな仕上がりになっていると予想出来ます。そのぶん、逆に言えば、生々しくダイレクトな質感、昔ながらのTSらしさという意味では、TS9 Mod Plusの方があるのではないかと思います。
Baked ModとRed Dirt HIモードは、周波数特性の面でかなり差異がありましたが、Mod PlusとRed Dirt LOモードの間には、そこまで極端な特性の違いは無いのではないかと推測します。
Red DirtのLOモードは、一般的なチューブスクリーマーとしては非常に優秀です。しょせんはチューブスクリーマーであり、また結構低音も残っているので、音抜けが抜群に良いという感じではありません。けれどもウォームでボールドな(太く、あたたかな)音でありながら、高級感があり、様々な用途に使えるちょうどいい音だと言えます。
僕が過去に、都内の楽器店をさんざん回ってMOD PLUSにたどり着いた時の「これが正解の音だよね」という説得力を、やはりこのRed Dirt LOモードからも感じます。もうちょっと質感がモダンというだけで。
TS9をベースにしたBaked Modが個性的な逸品だったのに対して、このRed Dirtはどちらかといえば優等生的な性格だと言えます。その点は、おそらくはMod Plusとの比較においても同じはず。
唯一無二の個性や、生々しい質感が欲しいのであれば、やはりTS9やTS808をベースにしたMOD品を見つけるしかない。けれども、優等生っぽい使いやすさを優先するのであれば、Red Dirtで十分。実用性の面では、Red Dirtの方が上回っていると思います。
このRed Dirtで凄いなと僕が思うのは、LOとHIの切り替えスイッチが付いていますが、どちらのモードもばっちり使えるものだと言うこと。
だいたい、この手のODペダルって、モード切り替えがあっても、結局ひとつしか使わない、みたいなケースが多いですが、僕の場合はこのRed Dirt、HIもLOも、どちらもばっちり使えます。どちらも逸品。
ですが、どちらがより好きかと問われれば・・・
それは「HI」モードです。こちらの方が、やはり飛び抜けて特徴的。
音圧が高く、力強い歪みが得られ、なおかつシャープで抜ける音になる。ワイルドさもあれば、高級感も同居している。オーバードライブのペダルに、濃い目の味付けや個性を求めている僕にとっては、まさに「どストライク」と言えるサウンドです。
やっぱり自分は、どちらかというと高めのゲイン、深めの歪みを求めているのだな、という点を再確認し、あの時、Mod Plusでなく、よりゲインの高いBaked Modに魅力を感じたのもやはり自然であった、どちらかを選ぶのであれば、Baked Modを選んでおいて正解であったのだと、あらためて実感した次第です。
まあ、TS9/808ベースのMod Plusも、縁があれば入手したいけれど、たぶんもう価格が高騰しているだろうから・・・
ちなみに、2000年代当時に有名だったもうひとつのMOD品のブランドとして、ご存知Analogmanというものがあったらしいですが。今ではTS系よりも、KOTで有名になっている感があるビルダーさんですが。
僕としてはKeeleyで十分にフィーリングが合っている気がするし、これ以上、沼に踏み込む勇気はないので、Analogmanを始めとするその他のTS MODには手を出さずにいたいと思っている次第です。苦笑。
と、ここまで書いて、さらに個人的な”Red Dirt”に対する所感を書き記しておきたいと思います。
なんでこんなに長くなるのか。
つまり、なるべく冷静に客観的に書きたい部分と、個人的なフィーリングから来る所感は、また別なんですよね。
このKeeley Red Dirtですが、Keeleyというブランド自体がちょっと高級なイメージを押し出しているからか、見た目にもちょっと高級感があります。
ちょっと大人な感じというんでしょうか。
変な言い方になるんですが、「ゴルフ感」があるんですよ。
僕は貧乏バンドマンなので、ゴルフとかしないんですが、このRed Dirtのデザインには、「昔、父親の部屋にあった、バブル時代の匂いのするゴルフ用品」みたいな匂いを感じます。文字のレタリングとか、ロゴとか、全体的にね。
ちょっとクラシックで、高級感のある、大人のテイスト。
これが、良いのか悪いのか。
ちなみに、インターネットで検索してみると、このRed Dirtは、発売以降、何度かデザインが変更になっているようです。でも、どのバージョンにも共通して、この「ゴルフ感」がある。
そのうち僕は、この「ゴルフ感」が鬱陶しくなってきたので、ちょいとばかり塗装をはがしてみました。正確には塗装じゃないですね、プリントされていた文字やロゴを削り取ってみたんです。すると、赤い筐体の下地だけが残って、良い感じに手作りエフェクターみたいな見た目になった。
これでルックスの面でも、好みになりました。
裏蓋を開けて分解してみたんですが、このRed Dirt、オペアンプは直接ハンダ付けされていて、ソケットではなかったので、オペアンプの交換は難しい(出来ない)タイプでした。付いていたのは、Keeleyでは定番とされるRC4558P。Baked Modの時は交換しちゃいましたが、このRed Dirtは現状で十分に気に入った音が出ているので、そのままで特に不満は無いですね。
ただ、分解してみたけど、筐体の中が結構狭くて、窮屈に部品が詰まっているので、あんまり中を開けるのはおすすめしないですね。壊さないかヒヤヒヤしたもの。
このRed Dirtは、上記したように、比較的ハムバッカーに対応して設計されたTSであるという印象を受けます。HIモードで音がシャープな特性を持つ事、低音が十分に削れる事、LOモードの歪み方にも、なんとなくロック的なキャラクターがあります。このRed Dirtを使用するギタリストとして、Dream TheaterのJohn Petrucciが挙げられていますが、なんとなくそれも納得ですね(本人は専用に改造されたモデルを使っているとのこと)。ハムバッカーに合うTS系オーバードライブを探している方には、有力な候補として挙げられるんじゃないかと思います。
もちろん一般的なチューブスクリーマーの範疇にあるオーバードライブですから、ブルーズを始めとして様々なジャンルの用途に使えると思いますが、なんとなくロック的なニュアンスがある。そして、誤解を恐れずにいれば、やはりほんのりとアメリカンなキャラクターがあるように思います。どう説明していいかわからないんだけど、そこはやはり、Keeleyさんがアメリカのビルダーだから、自然とそうなるのではないでしょうか。Maxonのペダルに、なんとなく日本人を感じてしまうのと同じだと思います。
好みか、好みでないか、と問われれば、僕はこのRed Dirtは非常に好みです。TS9 Baked Modも非常に面白いペダルなんですが、このRed Dirtも、同じくらい、あるいはそれ以上に面白い。
ただ、飛び抜けたペダルではないです。ただの、ちょっと高級感のあるチューブスクリーマーです。
このペダルは車で言えば高級車のようなものだと思います。高級セダン? 車もわかんないです。BMWみたいな。
性能のいいスポーツカーとかでは無いです。飛び抜けた性能は持っていない。
そして、ただのチューブスクリーマーの範疇を一歩も出ないので、そこには泥臭い実用品の面もあります。
見た目は高級車だけど、中身は実際には軽トラック、あるいはピックアップトラックみたいな。ちょっといいピックアップトラックみたいな立ち位置でしょうか。
参考。トヨタだけど。
僕はこのペダルは気に入っています。普段弾きでも、このペダルを手に取ることは多い。バンドのリハでも何度も使っている。なんだかんだ、自分にとってはど真ん中にあるODだと言えます。
しかし、実際にこれを現場で使うかと言うと、それは話が別。
平均的な優等生ペダルであるので、飛び抜けた個性は無いかもしれない。
昨年行った”Coming Back Alive”のレコーディングでも、このペダルは採用されなかった。それは、レコーディング用途で考えると、案外とつまらない音だったから。
でも、将来的には使う事があるかもしれない。
前の記事で書いたように、僕は2016年以来、Shoalsというオーバードライブをメインで使っています。ライブでもずっと、そのペダルを使っている。
でも、ライブの現場で、もし何らかの事情でShoalsが使えなくなったとしたら、その代わりに使う最有力候補は、このRed Dirtですね。もちろん「HIモード」で使います。
あくまでベーシックな「TS系」なので、決して今更に世間の注目を集めるようなアイテムでは無いんですが、道具としての実用性を求めるのであれば、結構アリだと思いますね。「アメリカン、ゴルフ、アダルト、ピックアップトラック」なキャラクターが、合うのであれば。
長くなっちゃってすいません。
雑感が異常に長いんです私。
もうレビュー記事とか書くのやめよっかな〜。
[追記: 2024年9月の時点で、Keeleyのオフィシャルサイトを見る限りでは、Red Dirtはすでに製品のリストに含まれていません。おそらくすでにディスコンになっているのだろうと思われます。しかし、実際のところRed Dirtは、Tone WorkstationやAriaなどのKeeleyの他の製品に含まれる事が幾度がありました。Ariaはまだ製品リストに残っているようです。]
> 後日追記
さて、そうこう言っているうちに、Red Dirtと、Mod Plusを比較する機会に恵まれました。
というか、お店にMod Plusがあったので、自分のRed Dirtを持ち込んで、比較してみたんです。
そこにあったのは、TS808 Mod Plus。トゥルーバイパスではない普通のキャラメルスイッチ。(スイッチ押しにくい)
店頭で、JCM800相当のアンプに通し、Red Dirt – Mod Plusの順番で直列に繋ぎ比較したものです。TS808のバッファーの影響は多少受けているかもしれないけれど、一応の比較は出来ていたと思います。
で、Keeley Mod Plusと、Red DirtのLo側を比較してみた結果。
予想はしていましたが、ほとんど同じです。
手持ちのTS9 Baked Modと、Red DirtのHi側には、周波数特性の違いや、DriveやToneの使い勝手の違いが確かにありましたが、Mod Plusに関しては、Red Dirt(Lo)とほとんど違いがありません。周波数特性、ローの出方なども、ほとんど同じです。ゲイン幅に若干の違いはあったかもしれないけど、個体差と言える程度。出力もだいたいおんなじ印象。
ただひとつの違いは、やはりRed DirtはインプットバッファーがJFET仕様のため、Red Dirtの方が若干音抜けが良く、多少現代的に音が浮き上がってくる印象。わずかに立体感があると言うか。それに対して、TS808 Mod Plusは、普通のチューブスクリーマー的に、地に足の着いたイナタイ音である。差異はそこだけのように感じました。
オリジナルのチューブスクリーマーらしさ、地に足の着いた音、音の粘り、そういったものを重視するのであれば、TS808やTS9をベースにしたMod Plusを選べばいい。
その逆に、音抜けや、より現代的な音を重視するのであれば、Red Dirtを選べばいい。
けれども、ほんのちょっとした違いです。はっきり言って、ほとんど同じでした。
どちらが好きかと問われれば。どちらを選ぶか、と聞かれたら。
僕はやはり、Red Dirtを選びます。音抜けの良さ、より鮮明な音像に魅力を感じるからです。
僕としては、Red Dirt (Lo側)は、Mod Plusの上位互換、純粋に改善されたものであるように感じました。
しかし、そのわずかな質感の差の他は、本当におんなじような音だったので、わざわざ両方買う必要性はない、と言えます。
Mod Plusも機会があれば手に入れたいな、と思っていたけど、ここまでRed Dirt(Lo)と同じだと、買う意義を感じなかったので、僕は手元にRed Dirtがあるからいいや、となったのでした。
2018年にいっぱいODペダルを試した時以来、実に6年ぶりくらいにMod Plusを弾いてみたけれど、これですっきりしました。たぶんあの時、Baked Modの方を買っておいて正解だったと思います。あれは唯一無二の個性があるので。
Mod PlusおよびRed Dirt(Lo)、これは、結構低音が残っているので、その意味では多少もっさりしていて、低音を思い切りカットするペダルなんかと比べると、多少音抜けが悪い部分もある。良く言えばウォームな音だとも言える。けれど、やはりKeeley系のTSの魅力は、なんだかちょっと音が生々しいところであると思います。そのぶん、ちょっと音が潰れやすい傾向があるけどね。
Baked Modについては、かなり特徴があって、扱いにくい部分があるペダルだと思うけれど、上記したように、はまると素晴らしい効果を発揮する。そして、Red DirtのHi側は、ヘッドルームの高さもあって、ハイゲインなTS系としては、かなり実用的な逸品になっていると思います。これは、元々のBaked Modよりも改善され、再チューニングされているのではないかと思います。
どちらにしても、今ではRed Dirtも生産停止され、Keeley Modもなかなか見かけないので、今更興味を持つ人もそれほどいないでしょうけれど、何かの役に立つかもしれないので、こうして書き記しておくのでした。
今はKeeleyは、Andy Timmonsのモデル(BD系)や、ふたつのペダルを合体させたNoble Screamerなんていうものを売り出しているようですね。
Does the world need another OD pedal?
世界には新しいODペダルが必要か?
答はノーだ。
だけど、その世界に立ち向かうために、唯一無二の相棒を必要としている若いギタリストは、きっといるだろうからね。
そんな事を言っているうちに、とあるMaxonのODペダルのオペアンプを思い切って交換してみたら、かなり最強になってしまったんですが、その記事はまた後日にでも。