Graceという名のギター

 

なんだか、ギターのレビュー記事になった。
Bacchus Grace-FT FMのレビューだ。

メーカーのウェブサイトは、これですね。
http://www.deviser.co.jp/BacchusGuitars/Guitars/grace-ft-fm

(追記。いちばん下にサンプルの動画を掲載しました – 2020Aug17)

 

また素晴らしいギターに出会ってしまった。
しかもまたしても冗談みたいな安価での出会い。
ギタリストとしての自分の価値観を揺るがすくらいの、新たな学びになるような楽器。

栄光のシリアルナンバー1。何なんだ。
バッカスの国内生産のいわゆるハンドメイドシリーズは10から始まる6桁の番号が振られているが、フィリピン工場製のグローバルシリーズにも関わらず、別のカテゴリ設定なのか、同様の10から始まる番号、が、この”Grace”モデルには振られているようで、その1番が、どういう成り行きか、今、私の手元に〜。

 

もともと、Bacchusさんは、普通な見た目のギターが多く、マーケット的に一般向けというか、初心者向けのイメージもあり、尖った見た目のギターとか、メタルっぽいギターはあんまり無い、というのが、HR/HM系のギタリストからすると、どうしてもあった。

が、ここ数年、特にフィリピン製のGlobal Seriesのラインで、ちょくちょく、メタル系ギタリストを狙ってきてると思われる製品を見かけることが増えてきた。

 

で、僕もここ数年、今まで持っていたギターをかなり手放し、Jackson、Charvel、B.C.Richといった往年のメタルギターはほとんど手放してしまったわけだが、自分の理想とするギターは「セットネック」のもの(言ってしまえばレスポールタイプ)であるものの、ボルトオンタイプのギターも、特に普段の練習とか気軽なセッション等の用途で必要だから、ということで、比較的安価な(たまにバーゲンとかで死ぬ程安く売られている)グローバルシリーズのギターに手を出していた。

 

その中で、まだ公開した音源には使っていないものの、今後公開予定の音源のレコーディングにもすでに使用し、この前、動画にちょこっと登場させた青いギター、型番的には、HGD-Custom24/MGとなるらしい、イケベ楽器のオリジナルモデル、あれをここ2年くらい、愛用していて。ほとんど溺愛していて。

それは、当たり外れもあるんだけど、不思議な(自分にとっては)当たりの個体を入手して、いわゆる80年代っぽいスーパーストラトなんだけど、これが誤解を恐れずに言えば「Van Halenのセカンドアルバムの音がする」というギターなんだよね。
もちろん、80年代メタル的なプレイ、サウンドにはほとんど対応できるもの。
フロイドローズでは無いけれども。軽いアーミングくらいならチューニングもほとんど狂わないし。

 

で、昨年、また、”Grace”(グレース)というモデルが登場したのを見ていて。

僕はバッカスさんの歴史もそんなに詳しくないけれど。
僕の知っている範囲では、やはりどこかの楽器屋さんの企画で、Deviserブランド名義で、このGraceというモデルを販売していたのをネットで見たことがある。かなり高い価格で。たぶんそれは、泣く子も黙る高級ギターの設計であったと思う。

で、今、そのGraceというモデルを、もうちょい普及モデルの設定で、Bacchusブランドで出してきたのだと思う。

これが、どうやら結構ヒット商品になっている感じがする。
華やかな見た目のメタルっぽいギター。
一周して戻ってきた80年代ギターというか。

で、もちろんのこと、キリスト教徒やってる僕としては、”Grace”(神の恩寵)なんていうネーミングだけで、ちょっと惹かれるものがあるじゃない。

 

Graceなんていうネーミングで、80年代っぽいメタル仕様のギターとか、なんかもう、また俺を狙い撃ちしてんのかな、これ、くらいの気がして(笑)

 

ただ、自分はもうメインで使っていくのはセットネックのやつだし、ギターの種類、すなわち絵の具の「色」は確かに色々あって必要ではあるが、売れない貧乏インディーバンドの人だし、ギターこれ以上増やしたくない、って思っていたから、もちろん静観していた。

が、誰が手放したんだか、中古で死ぬ程安くなってるのを、見つけてしまい、しかも上記のとおり、シリアルナンバーがなぜか1番。1ですか。何ですか、それ。

ということで、嫁さんが絶賛ハマっているところの「そうにゃん」の、実はサンプル番号1の「プロトタイプ」ぬいぐるみが家にいるのですが、それと同じだという話になり。(意味不明かと思いますが)

 

お店に行ってチェックしてみたら、ほんとに1番で。しかも、弾いてみたら、問答無用のスゴい逸品じゃないですか。

これは運命とあきらめて入手してしまいました。

 

上記、HGD-Custom24、マンゴーボディのやつ、あれが、80年代初期っぽい真面目でオールドスクールなスーパーストラトだとしたら、こちらのGrace-FT FMは、より90年代的というか、一周回った後の完成されたスーパーストラトですね。

中古で、言うのもはばかられるくらい安くなっていたんだけれども、(はい、すみません5万円以下です)、弾いてみると完璧に作られていて、(パーツこそ安物の部分はあるものの)、鳴り、音、作り、は、明らかに30万円以上のハイグレード・カスタム・スーパーストラトの音がしている。

 

でね、早めに結論を言っておくんだけど、これってPeavey Wolfgangなのね。
少なくとも、僕が手にしたこのシリアル1の個体は、完全にそうだった。これPeavey Wolfgangだよ。90年代後半のあの音だ。

 

たぶん、推測するに、昨年あたり、PeaveyがWolfgang (つまりEddie Van Halenモデル)の再発つーか、HPっていうモデルを出したじゃない。
それに引っ掛けて、というか、対抗ってわけじゃないにせよ、かぶせてきたモデルなのかもしれない。
シースルーのグラデーションカラーを出してきてるのも同じだし。

 

僕はMusicman Axis-EXは長年愛用していたけれど、Peavey Wolfgangは楽器屋さんで何本か弾いたことがあるくらい。

で、現行のEVH Wolfgang (by Fender)は、僕は、決して悪いギターではないし、今のエディには合っているのもわかるけど、でも正直あまり評価してない。

 

しかし、昨年、このPeaveyのHP2ってやつは、都内の楽器屋さんでいっぺん弾いてみた。
(自分にとってのEVH系モデルの「最終形」であるSTR LJ-2と比較したかったからね)

で、自分の感想としては、このPeavey HP2は、「かなり優秀な悪くないギター」だったんだけど(とはいえ、指板がやたらフラットだったり、疑問点も多々あったが)、

このBacchus Grace-FT-FMは、やっぱりそのPeavey HP2とすごく似てるね。
というか、僕としては、見た目が普通のスーパーストラトというかソロイストシェイプなのに、音が”Wolfgang”になってるところに驚いてるんだけど。やっぱプロのギタービルダーさんは、形だけじゃなく、材とか、いろいろで音を作れるんだなぁ、って。(素人でスミマセン)

だが、バッカス贔屓の僕としては、そういった贔屓目もあり、こっちの方がいいと、やっぱり思う。

これは、カリフォルニアテイストの完成されたハイグレード・スーパーストラトだ。

 

(もっともこの「シリアルナンバー1」が、特別な個体である可能性も高いし、いつも言ってるけど、Bacchusさんは、同じモデルでも結構、木材とか、ネックの形状とか、個体差があるから、一般論として断言は出来ないが)

 

 

こっからは僕の個人の感想。

ここ数年で、今まで使っていたギターをかなり売っぱらって、結果的に、手元に残ったのは、Bacchus、STR、Headwayというか。バッカスばっかし。
(Deviser系以外で手元に残っているのは、Hamer USAが一本と、共和商会時代の日本製Jacksonが一本のみ)

けれども、ボルトオンのギターを全部売っぱらっちゃった中で、その後、安価なグローバルシリーズを手に入れたけど、「メイプル指板」のやつは一本も無かった。

僕は、「しょせんアームも上手く使えない」のと同様に、フィンガーボードに関しても、「ローズウッドの方が自分には合ってる」(とはいえ、ローズウッドにも色々あるが)という結論に達している。

けれども、やっぱし、Eddie Van Halenが大好きなハードロックギタリストとしては、メイプル指板のスーパーストラトっていうのは、一本くらい手元に無いと、やっぱり手が寂しい。そんで、そういうプレイがしたい時には、やっぱりしっくりくる。

 

で、このギター、ネックがとんでもない。
たぶん、強度が強いんだと思うんだけど、ビクともしない系のネック。

たぶん今まで僕が試したことのある中で、「死ぬほど立派なストレートグレイン」で、「1ミリも揺れないネック」は、これもDeviserさんの飛鳥工場で作ってる品だと思うけど、Jamer TylerのJapanモデルのやつだった。

このGrace-FT FMのシリアル1も、それほどではないにせよ、ビクともしない強度と安定感を感じる。これは弦のテンション感にも影響が当然あるように思う。

 

で、メイプルフィンガーボードのくっきりした音、特有のブライトなミッドレンジにも関わらず、あたたかみを感じるのは、なんかしらんけど、きっとボディのマホガニーのせいなんだろうな。僕はレスポールタイプにおいて、Bacchusさんのギターに使われている「アフリカンマホガニー」が非常に気に入っているけれども、(自分で試した感想としては、ホンジュラスマホガニーとか、キューバンなんちゃらとか宣伝されてるやつよりも、アフリカンの方が自分には合う)、やはりこのギターの材も自分に合うのだろう。

余談だが、同様にGlobal Seriesを中心にBacchusさんがちょくちょく使っている「マンゴー」に関しても、コリーナとマホガニーの中間みたいな感じですげえ材だと感じている。どっちにしてもBacchus/Deviserさんの楽器は、「木本位」とでも言うか、木の特色を最大限に引き出すような楽器が多い。プレイヤーの都合、マーケットの都合よりも、木の都合を優先してるんじゃないかと思うくらいだ。だが、それがいい。

 

ネックのフィールは、わりとワイド系で、外人さんサイズとは言わないが、比較的おおらかなアメリカンなフィールのもの。僕の手にはもうちょっとこじんまりした握りでもいいんだけど、かといって、この手の「おおらかで、豪快な」アメリカンハードロックをやる時には、こういうフィールの方が気分が出るのも確かだ。実際、指は自然に動いてくれる。

 

ブリッジはウィルキンソンタイプが付いている。
僕は、ウィルキンソンのブリッジは実は初めてなんだけど、これがフローティングしていて、(ダウンオンリーにすることも出来るようだが)、アームアップも可能だということに驚いた。

とはいえ、ぐいんぐいんアーミングしますよ、という感じではない。
先述のHGD-Customは、シンクロタイプながら、結構ぐいぐいやってもチューニングはわりと安定してるんだけど、現状で、手元にあるこの「シリアル1」は、ぐねぐねアーミングすると、1弦とか、わりと引っかかる。ナットに鉛筆とか、なんちゃらソースとかを塗ることになるかもしれない。
— 後日追記、ヘッドのストリングガイドを高めにセッティングしたらあまり狂わなくなりました。かなりぐいっとアーミングしちゃっても大丈夫です。

 

ウィルキンソンブリッジについての感想は、その「へえ、フローティングしてるんだ」ということ、
そして、安定してるっていうか、理由は知らないが、構造上、ある程度力を込めないと動かないので、「安定したフロイドローズ」とでも言うべきか。そのぶん、クリケット奏法とかは無理ということだと思う。試しに6弦をドロップDにしてみても、他の弦のチューニングはほとんど狂わなかった。だからフローティングしているにも関わらず、フロイドローズみたいに弦が切れたら他の弦のチューニングも全部狂っちゃう、みたいなことは無さそうな気がする。
逆に言えば、フローティングしたフロイドローズ特有のふわふわしたピッチ感や、アタックの揺れは出せない。

そんで、フローティングしてることも含め、意外と、使い勝手や、そして実際のサウンドも、フロイドローズと比較して違和感がない。フロイドローズと似てる、とは言わないものの、サウンドの傾向もわりと近い。つまり、フロイドローズの利点として、特有の金属的なサウンドがメタルを演奏する際に合う、ということがあるが、このウィルキンソンというブリッジも、まぁ種類によるのかもしれないが、比較的、そういった金属的な鳴り方を持っているので、フロイドローズから乗り換えても「フィール」に違和感がないと思った。

ちなみに、安定した構造の特性なのか、フローティング状態でも、ギターの鳴りが損なわれているという感じはしない。無理にベタ付けにしなくても、「このままでいいかな」という感想だ。

 

ピックアップはBacchusのオリジナルだと思うが、作ってるのはきっと国内メーカーなんだろうけれども、今のところ、かなりいい、という感想を持っている。パワーも適度にあるし、音も現代的でクリアだ。ボディに直付けのせいもあるだろうけれど、これは変えなくても大丈夫だろう、と思っている。

Bacchusさんとこのギターのピックアップに付いてはいろいろ言われていると思うが、僕は今のところ、バッカスのギターを何本も入手した中で、交換したのはDuke Standardについてるヴィンテージタイプのハムバッカーが、蝋付けしていないタイプだったため、大音量で歪ませるとハウリングする関係上、交換せざるを得なかった、(音は良かった)、というのが一回。

あとは、これも練習用のGlobal Seriesの超安物Windy PLDが、ジャズマスターもどきである関係上、どうしても音が平板で低音もダブつくので、メタル用途に使うために無理矢理、手元に残っていたJackson J-80に変えてしまった(結果、とても凶悪になった)、という、その二回だけかな。

その他は、ストックのままのピックアップで問題ないと感じている。なぜかっていうと、それはピックアップに頼らなくても、楽器自体の鳴りが良いからだね。

近年、高いモデルにはMojotoneをのっけるようになって、良いチョイスだなと感じているが、かといって、安いモデルのピックアップも決して悪いものではないと思う。

 

2ハム仕様のピックアップはコイルタップが出来るが、正直なところ、あまりタップしてもニュアンスは変わらないというか、いかにもシングル、という音にはならないかな。アルペジオとかパワーのいらないパートで使ってね、という印象。偏見かもしれないが。

 

自分にとってありがたいのは、ここ数年でギターをいっぱい売っぱらって以来、初めてのメイプル指板、というか、Van Halenタイプのギターというか、長年使っていたMusicman Axisと同じ感覚で使えるギターが手元に戻ってきた、ということ。(しかも、もちろん、クオリティはアップした上で)

レコーディングで、どれだけ使うかはわからないが、きっとこれから行う「Nabeshima」の制作でも、「そういう音」が必要なパートで、部分的に使うんだろうな、と思う。

 

で、Peavey Wolfgangだぜ、っていう音がするところ。
たとえば1998年の”Van Halen 3″で聞けるような、クリアだけれども、あたたかみのある音。
それが、ギターの時点ですでにそういう音が完成されている。
ボルトオンのスーパーストラトとしては、最高に完成されたギターの音がする。

これはやっぱり、自分にとっては衝撃的だ。

自分は、今では「しっかりと作られたセットネック」の音が理想だと考えている。
(ただ、ボルトオンと違って、セットネックに関しては、そんなギターは現実には滅多にない)
(ボルトオンは、お金を出せば、良いものには比較的簡単に出会えると思う。だからそもそも、エレキギターの主流はボルトオンな訳だ。)

けれども、こうして、本当に良いスーパーストラトに出会うと、
やっぱりボルトオンも良いものは良いなあ。
そして、Van Halen系の音はやっぱりいいなあ、って。

そんなふうに価値観が揺らぐ。
また価値観をひっくり返されるような音であり、体験だ。

 

これは、言葉で書いても、わからないし、伝わらない。

そんで、たとえ弾いたとしても、やっぱり、誰もがわかるってわけじゃない。
プレイスタイルも、腕前も、好みの問題もあれば、ギターや音楽に対する向き合い方もいろいろある。

だけど俺は、弾いていて、びんびん伝わってくる。
こいつはヤベえ、ってことが。

その中から、ギタリストとして、また様々なことを、すでに教えられているし、これからたくさん教えてもらえるだろう。

 

この「シリアル1」の個体。
ユーザー登録カードには、長野県松本市の楽器店の名前が書かれている
販売されたのも、ほんの一月ほど前。

誰だよ、こんなすげえ楽器、買ってすぐに手放した人。
何考えて・・・じゃない、本当に、ありがとうございます!!!!
おかげで、良いものに出会えました。

へっへっえ、ユーザー登録は、僕がしちゃおうかな〜。

 

どっちにしろ、バッカスさんは、凄えギターを作っておきながら、黙って、というか、しれっと普通に売ってるからなぁ。

もっとも、国内モデルも含めて、Momoseブランド、Headwayブランド、その他、いろいろやってて、どういう売り方をするのかは、今の時代にあって簡単ではないことはわかる。
桜とか、和材がヒットしてるのもわかる。

でも、ちゃんと内容をわかって、弾いてみて、音で判断して、そんで個体差も見極めて探してみると、とんでもない「内容」を持った楽器が、ちょくちょくある。

なので、すっかりファンになってしまったわけだし、そして、楽器を通じて、ギタリストとして、身をもって勉強させていただいている次第。

また、新たな音の価値観を教えていただきました。

ありがとうございます。

 

– 追記。2020年8月17日
このギターでちょっとしたギターインストを弾いてみました。適当な曲ですが、このBacchus Grace-FTの音の特徴はよく出ていると思いますので、参考に貼っておきます。

 

 

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